それなのに、赤沢君が頭から血を流している様子を見て、夢花の映像が重なってしまった。
 心臓がドクンと激しく脈打って、呼吸が浅くなる。
 目の前で起きている事実を受け入れられなくて、私はただ、生徒たちが騒然とする声を、茫然として聞くことしか出来なかった。
「赤……沢君……なんで……」
 ようやく出たのは、彼にも届かないのではと思うほど、小さな声。
 心臓が、このまま壊れてしまいそうだった。
 大切な人を失うことは、この世で一番怖い。
 自分の中でいかに赤沢君が大きな存在になっていたか、はからずもこんな場面で自覚するだなんて。
 どうして私はいつも、こういう時でしか、自分の気持ちを自覚できないのだろう。
 本当に――自分のことが、嫌になる。

 赤沢君……、八雲は、その後一週間入院して、十二月に入り無事今日から登校できることになった。
 学校側は平謝りで、気にしていた入院費も全額学校負担だったらしい。
 病室で、八雲と手を握ったあの日のことを思い出しながら、私は今か今かと彼の登校を待ちわびている。
「粋、おはよ。赤沢君、今日から学校来れるんだよね……?」
「天音……」
 眉をハの字に下げて、リュックを背負ったまま天音が席までやってきた。
 私も同じように笑って、こくんと頷く。
 すると、天音の後に続いて、祥子とえりなもやってきて、「赤沢、あの日から軽く有名人だよね」と間に入ってきた。
 彼女たちの言う通り、あの事故を見た生徒たちは八雲のことをすっかりヒーロー扱いしているようで、まるで少女漫画のワンシーンみたいだったと騒がれているようだ。
 その噂を聞いたときは、凄く嫌な気持ちになった。
 私だったら、自分が大切だと思っている人に守られて、その人がいなくなってしまったら、何にも嬉しくないと思う。
 八雲のあの行動は本当に無謀で……、もう二度とあんなに怖い思いはしたくない。
「立川(たちかわ)とか、前から赤沢君はいいと思ってたーとか、古参アピしてたよ」
「あはは、ウケる何それ」
 えりなの情報に、祥子がバカにしたように笑っている。
 正直、そんな話など全然頭に入ってきていなくて、私は八雲が無事に来てくれることをただ祈っていた。
 すると、教室のドアがガラッと開いて、右こめかみ部分に大きな絆創膏を貼った八雲が、教室内に入ってきた。
「あ、来た……!」