そういえば、意識を手放す直前に見た白石は、今にも壊れそうな顔をしていたな。
 なんて思っていると、ガラッと勢いよくドアが開かれる音が聞こえて、乱れた吐息と共に誰かが近づいてきた。
「赤沢君!」
 白石は、呼吸を乱しながら、真剣な声で俺の名前を呼んだ。
 澄んだ瞳は真っ直ぐ俺のことを射貫いていて、複雑な感情を孕んでいるようだ。
 ハァハァという呼吸音だけが、空気を震わせている。
「秦野が大袈裟に心配してて、反応困ったわ」
 当たり障りのないことをつぶやくと、白石は「そりゃ、そうでしょう」と即答する。
 会話はそこで途絶えて、沈黙が生まれてしまったので、『入院費とか、学校側から少しもらえんのかな』とか、さらにどうでもいいことで話を繋げようとすると、白石がこっちにぐっと近づいてきた。
「……った……」
 俯き震えながら、何かを伝えようとしている白石。
「え? ごめん、聞こえなかった」
 聞き返すと、白石はその場に膝をついて、俺の布団に顔をうずめた。
「よかった……」
 ようやく聞き取れたのは、泣く寸前のような、震えた言葉。
 その声を聞いて、俺は心底動揺していた。
 まさか白石にも、そこまで心配をかけていただなんて、思わなかったから。 
「本当に怖かったっ……」
 何も言えずにいると、白石は俺の膝元付近で、再び声を絞り出す。
 小刻みに肩を揺らしているので、もしかしたら本当に泣いているのかもしれない。
 いったい、どうして。
 困惑すると共に、なぜか胸の奥がぎゅっと痛くなった。
「何で……。別に、平気だよこんくらい」
 動揺を隠せないままそう返すと、その回答は白石を最も怒らせるものだったようで、キッと思い切り涙目で睨みつけられる。
「助けてもらったことは感謝だけど……、あの行動はあまりに無謀すぎない?」
「別に……、助けたいって思ったからとかじゃなくて、いつ死んでもいいって思ってるからな。だって、俺のこの人生が終わったって、また生まれ変わって始まるわけだし」
「何……言ってんの?」
 本気で思っていることを淡々と口にすると、白石は今まで一度も見せたことのない表情をした。
 目に怒りの感情を溜めて、何かを伝えようとしている。
 こんな視線を誰かに向けられたことは人生で初めてだったので、俺は思わず押し黙った。
「赤沢君は……、この人生にしかいないじゃん」