真剣な顔で説明しているのは、普段あまり関わりのない養護教諭だった。
「頭を強く打って出血してるから、安静にね。無理に体起こしたりしないで」
 養護教諭は慌てた様子でナースコールを押してから、「学校に連絡入れてくるから待っていて」と言って、病室を慌ただしく出ていく。
 開け放たれたドアから、今度はひとりの男子が慌てた様子で中に入ってきた。……秦野だった。
 廊下の外で「待合室で待ってなさいって言ったでしょう」と養護教諭からやんわり叱られている声が聞こえたけれど、彼はそれを無視してまっすぐこっちにやってくる。
「八雲!! お前……、起きたか! 俺のこと分かるか⁉」
「……いや、普通に分かるわ」
 体を起こそうとしたけれど、背中に激痛が走り、俺は再びベッドに体を沈める。
「無理したらダメだって! 何であんな無茶したんだよ、お前……」
「秦野、声少し抑えろって……他の患者もいるんだから」
「俺、ガチでびっくりしてよぉ……、お前がもし死んじまったらって……」
 泣きそうな顔で俺の顔を覗き込んでくる秦野の肩を、やんわりと押す。
 しかし彼は引かず、俺の手をがっしり掴んで、ぐっと顔を近づけてきた。
「何か飲みたいものとか食べたいもの、あるか⁉ 何でも買ってくるから!」
「えー、じゃあ、冷たいお茶とか……?」
 何かお願いしないと気が済まなそうだったので、俺はテキトーなお願いごとをした。
 すると、秦野は目を輝かせて、すぐに敬礼のポーズをする。
「了解、任せろ! すぐ買ってくる! あ、白石さん今待合室で待ってるから、呼んでおくよ!」
 嵐のように病室を出ていった秦野のうしろ姿を見送ってから、俺は再び天井に視線を戻して、大きな息を吐く。
 秦野の必死な顔を見たら、本気で心配してくれたんだということが、嫌と言うほど伝わってきた。
 そこまで心配をかけてしまったことは悪く思うが、正直大袈裟だなとも思う。
 あのとき咄嗟に走りだしたのは俺の勝手な判断で、秦野が悔いることはひとつもない。
 助けなければ、と強く思ったのは、二人が自分より弱い者だと思っていたからかもしれない。
『あのさあ、私は前世の記憶を保てないんだから、私目線では人生は一度きりなんだけど、一応』
 駅で白石に言われた言葉が、知らず知らずのうちに身に染みて、自分の考えに影響を及ぼしていたのだろうか。