「抜け出したの知ってるのは、天音と粋だけのはずなんだよね。なんかヘマした?」
 苦笑交じりに確認してくる祥子から敵意を感じて、私は少し身震いした。
 そんな訳ない、という意味を込めて首をぶんぶんと横に振ると、「冗談だよ」と口元だけで笑う祥子。
 えりなも隣で髪を掻きあげて、ふぅとため息を吐いている。
「推薦狙ってたのに、かなり難しいと思えって言われちゃってさ……、本気で最悪。そんなに大事(おおごと)?って感じ」
「チクッたやつガチで恨むわー。絶対真面目キャラからの妬みだよね」
 推薦に響くとまで言われてしまったのか……。
 たしかに、えりなは推薦で行きたい大学があるから、学内テストは毎回かなり力を入れていた。
 この状況はまさに自業自得、という言葉以外に見つからないが、二人の怒りの矛先は、教師に報告した生徒に向かっているようだ。
 というか、多分……、私と天音がものすごく疑われている。
「粋のことは信じてるけど、天音、要領悪いところあるからなー」
「ねぇ、先生の緊急点呼とかで、天音が何かやらかしたりしてなかった?」
 何だ、それ……。
 抜けだしたのは自分の判断で、それが教師にバレようと私たちには一切関係ない。フォローするような義務もない。
 私も天音も一切告げ口はしていないけれど、そんな風に言われたら、いくら何でも腹が立ってくる。
「絶対ないよ。私も、天音も」
 私は拳を握りしめながら、彼女たちをまっすぐ見つめて答えた。
 少し声に怒気が含まれていることにハッと気づいたのか、二人は少しだけ怖気づいている。
「まあ、信じる信じないは、任せるけど……」
 曇った声でそう補足すると、祥子が分かりやすく慌てた様子で、「いやいや、粋のことは何も疑ってないって!」とフォローしてきた。
 私はその言葉にも凄く違和感を抱き、「天音は?」とすぐに聞き返してしまった。
 その問いかけに、祥子は一瞬ぎこちない表情になった。
「あー、えっと、何かややこしくなってきたね。別に祥子も私も天音を疑ってるわけじゃなくて、ほらあの子、私らと違ってすっごく素直でいい子じゃん? そういう意味で、教師に嘘つけなくて伝わっちゃいそうだなって思ったんだよ」
「そ、そうそう、そういうこと!」