渾身の演技で、行けなくなったことを伝える。
 あの場で天音みたいに断っていれば、こんな嘘を吐かなくてよかったのに、と心の中で自戒しながら、演技をした。
 二人は少しつまらなさそうな顔をしたけれど、「そっか、じゃあ仕方ない」と言ってくれた。
「でも、粋がいた方が絶対楽しかったのになー」
「まあまあ、祥子。粋、ほんとに調子悪そうだし」
「二人とも、ほんとごめんね」
 なかなか自分の演技力には自信を持っていいのかもしれない。
 えりなが祥子をたしなめてくれたので、この場はなんとかおさまりそうだ。
「粋、明日のグループワークは一緒にやろうね。じゃ、緊急点呼とか何かあったら連絡よろしく」
「うん、了解。気を付けて」
 二人を小声で見送り、ようやくひとりになると、私はホッと一息ついた。
 胸をなでおろしながら部屋に戻ると、同室だった天音が「大丈夫?」と心配そうに布団から顔を出す。
 四人部屋で、えりなと祥子は出て行ってしまったので、今この部屋には私と天音しかいない。
 天音にも体調が悪いふりをしているため、私は引き続きお腹が痛い演技をしながら、ベッドへ潜り込んだ。
 天井を見ながら、私は自然にふぅ、と安堵のため息を漏らしてしまう。
「よく休んでね。たくさん歩いて疲れただろうし」
「天音もね。今日は楽しかった、ありがと」
「ううん。赤沢君が地理強くて助かったよね。意外と面倒見いいというか……」
「ふ、たしかに」
「妹とか弟がいるのかな? 秦野君と私、完全に子供みたいに頼り切ってたよ」
 まあ、実際に人生何周もしてるしね……とは言えない。
 私は天音にバレないように笑いをこらえながら、今日のことを思いだしていた。
 色んな名所を見て感動したはずなのに、頭の中は……赤沢君のことでいっぱいだ。
「……ねぇ、粋。今日のお昼、祥子とえりなからの誘い、すぐ断っちゃってごめんね」
「え……?」
 急に思いつめたように話しだす天音に驚き、小さく声を漏らす。
「私があんなに速攻で断ったから、粋、あの後断りづらかったよね。体調、あの時から悪かったんだよね? 私、あんまりにも嫌だったから、つい……」 
 必死に話す天音に、私はふっと思い切り吹きだしてしまった。
 いつも素直な天音の言葉には、嘘がないから救われる。
「はは、あんまりにも嫌って……ふふ、面白いな、天音は」