「いいよ。白石の〝本当〟、聞いても」
「え……」
「本人に言えないなら、俺に言えばいい」
 はっきり言い切る俺を、丸い瞳で見つめている白石。
 立ち止まっている俺たちの横を、数人の参拝客が通り過ぎていく。
 まるで時間が止まったように感じた、数秒間。
 白石は、ほんの少しだけ、泣きそうな顔をした気がした。
「なんで……、そんなこと言ってくれるの?」
 そんなことを聞かれても、俺にも分からない。
 白石が余命宣告をされているから?
 友人関係で悩んでいて息苦しそうだから?
 自分の秘密を打ち明けた相手だから?
 過去の自分を見ているようだから?
 分からない。だけど、初めて誰かのことを知りたいと思ったのは、紛れもない事実だ。
「知りたいから」
 色んな感情を省いてそう伝えると、白石の澄んだ瞳が揺れた。
 これから先の長い人生を考えると、彼女の人生と俺の人生が交差しているのは、本当に一瞬のことだ。
 こんな感情、きっと大人になったらいつか忘れることを知っている。
 だけど、彼女を知りたい。今はその感情に素直になりたいと、そう思ったんだ。



 〝私〟を知りたいと思う。
 そんな感情を、あれほど真っ直ぐにぶつけられたのは、初めてのことだった。
 言われた瞬間、ドクンと心臓が跳ねて、胸の中が一気にざわついた。
 いつも通り抑揚のない声で言われた一言だったけど、その言葉はまっすぐ心臓に届いてしまった。
 私のことなんか知ったって、どうしようもないのに。
 数年後にはいなくなる予定の、私のことなんか。
 それなのに、赤沢君の瞳は真剣で、ひとつも嘘がないことが分かってしまった。
『結局、いつも〝本当〟のことしか伝わらない』
 彼自身が語った言葉が、頭の中に響いた。
 あの瞬間。その言葉の意味を、私は身をもって体感してしまった。
 彼の本当の気持ちは、私の心の中に、光のように真っ直ぐ届いた。

「あ、粋来た」
 伏見稲荷大社からホテルに戻った夜、私はえりなと祥子に呼ばれた通り、先生の点呼を終えた後にホテルの裏口へと向かった。
 風呂上がりにも関わらず、化粧ばっちりで私服姿の二人は、高校生には見えないほど大人びている。
 そんな二人は、すっぴん姿に部屋着で現れた私を見て、明らかに眉を顰めていた。
「ごめん。楽しみにしてたんだけど、ちょっと体調悪くて……」