白石は勝手に須藤と夢花さんを重ねて見ていて、須藤を守るために橋田と芹沢とつるんでいる。あえて四人一緒にいた方が、須藤が攻撃されることはないとでも思っているんだろう。
 つまり白石は、須藤のために、居心地の悪い二人との縁を切れずにいるのだ。
 ……何だかすごく、白石らしい考えだと思った。
「須藤と夢花さんは別人だろ」
「うん……、分かってる。勝手に重ねて見るなんて、失礼だってことも……」
「同じ人間は二度と生まれない。だから今この世界に、夢花さんはいない」
 そう言い切ると、白石は「うん」と、静かに頷いた。
 頭では分かっているのに、切り離せないことなんてこの世にはいくつもある。人間の感情はそんなに単純じゃない。
 苦しそうにしている白石に、俺はどうして、こんなにも何かをしてあげたいと思ってしまうんだろうと、不思議になった。
 他人に対して、そんな感情を抱いたことなど、一度もないのに。
「俺……、橋田たちみたいにカースト上位な立ち位置も経験したことあるし、大人しいグループにいたこともあるけど、ひとつ共通してること、あったよ」
「共通してること……?」
 不思議そうに顔を上げる白石の瞳を、俺はまっすぐ見つめる。
「結局、いつも〝本当〟のことしか伝わらない」
「え……」
「自分の状況を変えるのは、いつも〝本当〟だけだ」
 そう言い切ると、白石は一瞬目を丸く見開く。
 そして、胸の中に落とし込むように、心臓付近の服をぎゅっと掴んだ。
 長い長い人生の中で感じたことを、誰かに話すのなんて、初めてのことだった。
 偉そうに何かを語れるような人間ではないということにはたと気づき、俺はすぐに今話したことを後悔する。
 しかし、白石は俺を見て、ふっと少しだけ目の力を緩めた。
「なんか……、赤沢君に言われると、説得力あるね」
「……何だそれ」
「じゃあ、私の〝本当〟は、赤沢君に聞いてもらおうかな。なんて」
 白石は少し遠くを眺めてからそんなことをつぶやいて、再びゆっくり歩きだす。
 赤いトンネルの先を、白石は自分の足でぐんぐんのぼっていく。
 彼女が余命宣告をされていることなんて、いったい誰が想像できるだろう。
「いいよ」
 俺は、まっすぐ伸びた白石の背中に向かって、少し大きな声で返す。
 何に対しての返事か分かっていないのか、彼女はこっちを見て不思議そうにしている。