耳を塞いで思い切り嫌な顔をすると、粋は少しホッとしたように苦笑をもらす。
 それから、「私も同じ」とハッキリした声で同意してくれた。
 その回答を聞いて、私も心底ホッとした気持ちになる。
「だよね。私達は二次元で十分!」
「とか言って、中学生になったらすぐに恋人とか作っちゃいそうだなー。粋は」
「ないない。裏切りなし!」
「ほんとにー?」
 私の言葉に、鈴を転がしたような声で笑う粋。
 リアルで誰かを好きになるなんて、全く想像できないし、クラスの男子なんて猿にしか見えない。
 告白しようかどうか悩み相談をしてくる女子も、違う世界に住んでいる生きものみたい。
 私には大好きな漫画と、夢花がいればそれでいい。
「夢花、中学でもずっと一緒にいようね。ひとりにしないでよ!」
「もちろん! ねぇ、中学生になったら外で友達とご飯食べるのママがOKしてくれたの。一緒に駅前にある“ボムの実”のビッグパフェ食べに行こうよ」
「えー、最高! 行こう行こう」
 知らない世界のことなんて、知らなくていい。
 あの頃の私達には、安心できる狭い世界があればそれで十分だった。



 十一月に入り、修学旅行まであと二週間となり、自由行動でどこを見学するのかを大詰めすることになった。
 ホームルームにて、A班のメンバーで机を向かい合わせにつなげて、自由行動のコースがプリントされた紙を眺めている。
 針のようにツンツンとした短髪スタイルの秦野君が、やる気満々でリーダーを引き受けてくれたので助かった。
「女子チームは絶対行きたいところある?」
「お寺は興味ないなー」
 秦野君の言葉に即答すると、横にいた天音が「えっ」と小さく声を上げる。
「あれ、天音、寺好きなの?」
「えと、伏見稲荷だけ行けたらなって思ってて……。最近狐ブームで……」
「え、どんなブーム?」
 思わず秦野君と声をそろえてしまったが、天音は顔を赤くして「行けたらでいいの!」と手をぶんぶん横に振っている。
 天音も私と同じで意外とアニメ好きな所があるから、もしかして狐関連でハマっているキャラでもいるのだろうか。
 私は「だとしたら伏見稲荷大社中心に考えようか」と提案する。
 モノクロ印刷された地図に赤丸を付けると、秦野君が元気に手を挙げた。
「はいはい! 俺おばんざいとか京都っぽいっもの食べたい!」
「あ、いいんじゃない?」