お店から出てお金を渡そうとしたけれど、「いいよ」と言われて、ずいっとラムネを差し出された。
 キンキンに冷えたラムネは、気温差で汗をかいている。
「あ、ありがと……」
「開け方分かる?」
「わ、分かるよ! さすがに」
「そっか。ごめんつい、妹連れてきたみたいで」
 妹って……。そんな感覚で今まで私と接していたのか。どうりでやたら面倒見がいいと思った。
 海が見えるところまで自転車を移動させて、塀に寄りかかってラムネを飲むことにした。
 開け方なんて分かると豪語してしまったものの、じつは瓶のラムネを飲むのは生まれて初めて。
 赤沢君が開ける様子を盗み見してから、私も青いビー玉をぐっと親指で押しこんでみる。
 すると、持ち運ぶときに少し揺らしてしまったせいか、ぷしゅっとラムネが流れ出てしまった。
「わっ、最悪!」
「はは、下手くそ」
 赤沢君が笑っているのはすごくレアだけど、私は今それに感動している余裕はなかった。
 慌ててリュックからハンカチを取り出し、瓶の周りを拭く。
「交換してあげよっか?」
「……だから、妹じゃないって」
「そうだった」
 私がじとっとした目で言い返すと、赤沢君はまた静かに笑う。
 プライベートでは、意外と笑い上戸なんだろうか……? そんなことを思いながら、私はようやくラムネを喉に流し込んだ。
 青空をそのまま瓶に閉じ込めたかのような、爽やかな味が喉を通り過ぎていく。
 今日は見事な秋晴れで、気温も高く、じつはかなり喉が渇いていた。
 ビールのごとく瓶を傾け、半分以上一気に飲んでしまった私は、ぷはっと息を吐く。
 中身の減った瓶の向こう側に、海が透けて見える。
 その景色を見て、私は素直に美しいと思った。
「生き返った?」
 赤沢君の問いかけに、私はこくんと頷く。
 この景色を……、夢花と一緒に見られたらどんなによかっただろう。
 叶わぬ願いに思いを馳せながら、私は海と空の境界線をぼうっと眺める。
「ねぇ、死ぬときって、どんな景色が見えるの?」
 突然そんな疑問がふと浮かんできて、赤沢君に問いかけてみた。
 彼は唐突な問いに少し驚いたのか、数秒固まっていたけれど、うーんと唸りながら斜め先を見上げる。
「飛行機乗ったことある? 上から空と海の境目が見えるでしょ、そこに吸い込まれていく感じ」