ぷくっと頬を膨らませている天音を見て、何とか作り笑いを返し、夢花を無理やり頭の隅に追いやって、現実と向き合うことに努める。
スマホで【しまなみ海道 サイクリング】と打ち込むと、抜けるような青空の下、海峡を横断している写真がいくつも上がってきた。
正直体力には全く自信がないしかなりインドア派だけど、たしかにこれは気持ちよさそうだ。
『高校生になったら、一緒にしまなみ海道をサイクリングしようよ!』
夢花の声が頭の中に流れ込んで来て、私はある決意を固める。
死ぬ前にやりたいことが何なのか分からないでいたけれど、今ハッキリとした。
私は、夢花と漠然と約束していたことを、死ぬ前に叶えたい――。
「いいね。ありがとう、天音」
「うん? どういたしまして」
不思議そうにしている天音に御礼を伝えると、私はすぐに赤沢君にメッセージを送った。
【しまなみ海道を自転車で爆走してみたい】
すぐに既読になり、赤沢君から【なんで?】という一言が返ってきた。
真顔になっている彼の様子が容易に想像できて、私は少しだけ吹き出してしまった。
駅から徒歩十分の場所にある、そこそこ大きな一軒家。
再婚した父親が母親の要望を全て聞いて五年前に建てた家で、田舎の景色からかなり浮いている。
ヨーロッパのお城をイメージしたらしく、鉄製の門扉と煉瓦で出来た門柱を通り過ぎると、小さな薔薇のような花が咲き誇っている。
金色のドアノブが付いた、背の高い真っ白なドアを開けると、すぐに母親が走ってくる音が聞こえた。
「粋ちゃん! お帰りなさい」
「うん、ただいま。また何か作ってたの?」
キッチンから漂ってくる甘い匂いに気づき、ローファーを脱ぎながら問いかけた。
「うん。粋ちゃんのおやつにと思って、クッキー焼いたのよ」
「へぇ。本当いつもマメだね」
父親が紀香(のりか)さんと再婚したのは、小学三年生のこと。
不動産の社長である父親は、仕事でのすれ違いを理由に私が幼い頃に離婚したらしいけれど、突然十個も年下の美人な女性を紹介されたときは驚いた。
スラッとしたモデルみたいなスタイルに、ぱっちり二重の吸い込まれそうな瞳、艶やかにウェーブしている落ち着いた色合いの茶髪。
スマホで【しまなみ海道 サイクリング】と打ち込むと、抜けるような青空の下、海峡を横断している写真がいくつも上がってきた。
正直体力には全く自信がないしかなりインドア派だけど、たしかにこれは気持ちよさそうだ。
『高校生になったら、一緒にしまなみ海道をサイクリングしようよ!』
夢花の声が頭の中に流れ込んで来て、私はある決意を固める。
死ぬ前にやりたいことが何なのか分からないでいたけれど、今ハッキリとした。
私は、夢花と漠然と約束していたことを、死ぬ前に叶えたい――。
「いいね。ありがとう、天音」
「うん? どういたしまして」
不思議そうにしている天音に御礼を伝えると、私はすぐに赤沢君にメッセージを送った。
【しまなみ海道を自転車で爆走してみたい】
すぐに既読になり、赤沢君から【なんで?】という一言が返ってきた。
真顔になっている彼の様子が容易に想像できて、私は少しだけ吹き出してしまった。
駅から徒歩十分の場所にある、そこそこ大きな一軒家。
再婚した父親が母親の要望を全て聞いて五年前に建てた家で、田舎の景色からかなり浮いている。
ヨーロッパのお城をイメージしたらしく、鉄製の門扉と煉瓦で出来た門柱を通り過ぎると、小さな薔薇のような花が咲き誇っている。
金色のドアノブが付いた、背の高い真っ白なドアを開けると、すぐに母親が走ってくる音が聞こえた。
「粋ちゃん! お帰りなさい」
「うん、ただいま。また何か作ってたの?」
キッチンから漂ってくる甘い匂いに気づき、ローファーを脱ぎながら問いかけた。
「うん。粋ちゃんのおやつにと思って、クッキー焼いたのよ」
「へぇ。本当いつもマメだね」
父親が紀香(のりか)さんと再婚したのは、小学三年生のこと。
不動産の社長である父親は、仕事でのすれ違いを理由に私が幼い頃に離婚したらしいけれど、突然十個も年下の美人な女性を紹介されたときは驚いた。
スラッとしたモデルみたいなスタイルに、ぱっちり二重の吸い込まれそうな瞳、艶やかにウェーブしている落ち着いた色合いの茶髪。