晴れて修学旅行の組み合わせは決まり、A班の男子は赤沢君と秦野君で決まりとなった。
 ちなみにもう一人の女子は天音だ。くじ引きだったのに天音と一緒になれたのは奇跡だ。
「天音、よろしくね」
 後ろの席にいる天音に話しかけると、彼女はこくんと頷く。
「なんか、キャラ正反対な男子二人で、面白そうだね」
「はは、天音もそう思う?」
 天音が楽しそうでよかった。
 秦野君も、放っといてもたくさん話してくれそうなので、私としては助かる。
 それに、赤沢君と一緒というのも、何か運命的なものを感じる。
――超記憶能力、というものがどういう能力なのかを、自分なりにあのあと調べてみた。
 でも、ネットには情報は一切載っていなくて、胡散臭い記事を見つけただけ。
 最初は半信半疑だったけれど、赤沢君がそんな嘘を吐くメリットも思い浮かばないし、いつも厭世的な空気を放っている彼が人生を何周もしている、というのはなんだか妙にしっくりきてしまったのだ。
 そういうわけで、勢いで結んでしまった契約関係。
 死ぬ前にやりたいことなんて、ちゃんと考えたこともなかったけど、彼のためにまとめておかなくては。
「ねぇ突然なんだけど、天音って死ぬまでにやりたいことある?」
 本当に唐突な質問に、天音は目をぱちくりさせている。
「どうしたの? 急に……」
「いや、ちょっとそういう映画?を最近観まして……」
 苦しい言い訳にも関わらず、天音は両手をパチンと合わせて、「あ、バケットリスト作るやつ?」と目を輝かせている。
 そうなんだ。本当にそういう映画あるんだ。
 バケットリストって、確か死ぬまでにやりたい百のこと、を書き留めるノートのことだよね。
 人気動画配信者がいつか動画にしていた記憶がある。
「私はね、しまなみ海道を自転車で爆走してみたい!」
「え、どうして……?」
 しまなみ海道、という言葉を聞いて、心臓がドクンと跳ね上がった。
 それは……、夢花もいつか言っていた願いだったから。
 教室の端で大人しく読書していた夢花の姿と、今目の前で無邪気に笑っている天音の姿が重なっていく。
 違うのに。天音は、夢花ではないのに……。
「最近お姉ちゃんが友達と広島旅行した時にやってたの。すっごく気持ちいいって」
「自転車爆走なんて、こんなど田舎だったらどこでもできんじゃん」
「もう、粋、夢がないなあ」