「いいね。丁度行きたいと思ってた」
「やったー!」
 素直で明るい茉莉を見ていると、こんな風に感情を素直に表現できたらどんなにいいだろうと思う。
 初めは美術部で浮いていた自分に対して、茉莉だけは最初から人懐っこく話しかけてくれたのだ。
 美術部の部員は皆個性的で、いい意味で自分のことしか考えていないマイペースな生徒ばかりなので、こっちも過ごしやすい。
「小春はテーマ何にするの? 静物画? 人物画?」
 茉莉の質問に対して、気づいたら「人物画」と即答していた。
 
 茉莉と画材を買いに行き、電車の中で別れたその後。
 つい揺れが気持ちよくてうとうとしてしまい、目を開けたらまさかの見知らぬ駅まで寝過ごしていた。
「やば……!」
 慌てて立ち上がり電車から飛び降りて、バッとあたりを見回すと、他校の女子高生が同じ電車から降りてきた。
 寝起きで頭が混乱していたため、今どこの駅にいるかもわからぬまま、キョロキョロと辺りを見回す。普段使っていない路線かつ、単線しかないかなり小さな駅で、駅員さんも見た限りいない。
 スマホですぐに乗り換えを調べようとしたものの、まさかの電源が切れていた。
「最悪だ……」
 不審者扱いされることを覚悟のうえで、一緒に降りた女子高生に仕方なく声をかけようとした。
「あの、すみませんここ……」
「え……」
 彼女と目が合ったその瞬間、心臓が再び大きく跳ねた。
――間違いなく、あの日橋の上で涙していた女の子だと、瞬時に理解した。
 吸い込まれそうなほど大きな瞳に、ブルーのネクタイ。
 鎖骨の高さで切られた栗色の髪の毛は、内側にふわっと大きなカールを描いている。
 雪のように白い肌をしていて、左目のそばに、印象的な泣きぼくろがついていた。
 間違いない。記憶の中の彼女そのままだ。
「あ、えっと……突然すみません」
 言葉を濁すも、彼女はじっとこっちを見たまま、固まっている。
 でももう、この機会を逃したら今度こそ一生会えないかもしれない。
 気持ち悪がられるのを覚悟のうえで、あることを確かめることに決めた。
「あの、一度会ったことありますよね? T橋の上で」
「え……」
「泣いてたんで、印象に残ってて……」
 そう言うと、彼女は茫然と立ち尽くしたまま、閉口した。
 本来なら、こんな風に見知らぬ人に絡むなんて、自分の性格上絶対にありえない。