「あー、小春! 入賞おめでとう! 悔しいけど、いい絵だったわ」
 黒髪をひとつに縛った部長が、肩をバシバシと激しく叩いてくる。
 部長の絵はあと一歩のところで金賞を逃してしまったけれど、個人的にはすごく大好きな作品だった。
「部長の絵もすごく好きでした。勉強になりました」
「真面目! もうー、世渡り上手だなー小春は」
 ちなみに、今回金賞を受賞した自分の絵は、空と海の間で佇んでいる女の子の絵だ。
 テレビでウユニ塩湖の特集を見てから、こんな雰囲気の絵が描きたいと瞬時に思い、一カ月集中して完成させた作品。
 鏡のようになっている海を再現するのがとても難しかったけれど、自分でも過去最高の力作だと思わず自画自賛してしまったほど。
「さあ、今日から次の課題決めするよー!」
 少し遅れてやってきた女性顧問が、パンパンと手を叩いて着席した。
 そして、課題のテーマを黒板に勢いよく書き出していく。
 茉莉と一緒に席を用意しながら、書き出されていく文字を左から目で辿った。
「テーマは〝光〟。光の表現が活かされた作品を考えてください」
 その単語を聞いた瞬間、なぜか胸がざわついた。
 感情の変化とは全く関係ないタイミングで、ドクン……と勝手に心臓が跳ねたのだ。
 不思議に思いながらも、心臓当たりの制服をぎゅっと掴む。
「うわー、難しそう……。私、陰影つけるの苦手なんだよねぇ」
 隣で茉莉がそんなことを言ったので、同じようにこくんと頷く。
 光か……。いったいどんな題材にしよう。テーマが広い分、選ぶのが大変だな。
 なんて思っていると、またドクンと心臓が勝手に動いて、ある映像が浮かび上がってきた。
「え……」
 高二の冬。帰路にある橋の上で出会った、青いマフラーをつけた女の子。
 近くにある女子高の制服を着ていた他校の生徒で、初対面だったのにも関わらずなぜか強烈なインパクトを残してくれた。
 あの日から一度も遭遇していないけれど、たまに夢に出てくることがある。
 光、という単語を聞いて、なぜかその子が瞬時に浮かんできたのだ。
「誰なんだ……」
「え?」
「ううん、ひとりごと」
 不思議そうにこっちを見てきた茉莉に対して、静かに首を横に振った。
 茉莉は「そう?」と首を傾げながら、イーゼルを立てかける。
「あ、そうだ。今日一緒にセカイ堂行かない? 画材買い足したくって」