残り少ない命だけど、私は最後まで感情を捨てずに生きると誓う。
 傷つけられたら怒るし、悲しかったら涙を流す。嬉しかったら笑うし、幸せだったらありがとうと伝える。
 もう、自分を嫌いでいることで、世界に言い訳したりなんかしない。
 ただただ、自分の気持ちと向き合い続け、心を動かす。
 それがきっと、生きるってことだから。
 もう二度と戻れない日々を、大切にするということだから。
「ありがとう。八雲……生まれ変わって、会いに行くから……っ」
 八雲。来世でまた会えると、信じているよ。
 到底叶わぬ願いでも、信じるだけなら、いいでしょう。
 海の真ん中で、私は残りの時間を悔いなく過ごすと、強く強く胸に誓った。
 夕日が沈みきると、世界はあっという間に紺色に包まれていった。



 あれから一週間が経ち、私は予定通りに入院し、できる限りの治療を受けることとなった。
 母親と父親はお見舞いにやってきては、今日起こった嬉しいことや悲しいことなど、なんてことない他愛もない話をしてくれる。
 秦野君と天音も放課後一緒に遊びに来てくれて、学校であったことをたくさん教えてくれた。
 私はそれがとてもありがたくて、唯一治療への恐怖から気が紛れる時間だった。
 病室内は個室なこともありとても静かで、夕方になると窓からは綺麗な夕日が見える。
 八雲のことを思いだすと、涙が止まらなくなることが何度もあるけれど、私は何も我慢せずに泣きたいときは泣くことにした。

 そんな風に過ごしていたある日。
母親の元へある人から電話が入ったらしく、今日この後に面会することになった。
 その相手は、あの日助けた女の子のお母さんだった。
 自分の母親曰く、お堅い感じの話し方だったらしく、同席すると言ってくれたけれど、私はやんわりと断った。
 本を読みながら静かに面会時間がくるのを待っていると、コンコンと静かなノック音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
「失礼します……。楠本(くすもと)です」
 現れたのは、ピシッとスーツを着こなした三十代後半くらいの女性と、暗い顔で俯いている、ピンクのワンピース姿の女の子だった。
 楠本さんは、とても気まずそうな面持ちで「その節はお世話になりました」と頭を下げた。
「いえ、そんな……頭をあげてください」
「一緒にいられたご友人にも、頭があがりません……」
「楠本さん……」