「会いたいっ……会いたい、会いたいよ、八雲っ……」
 涙で震えた声。穏やかな波の音。燃えるように赤い夕陽。
 この景色を、八雲と一緒に見たかった。見たかったよ。
「約束したのに。一緒に来るって、約束、したのに……っ」
 どうしようもない、行き場のない感情を、空にぶつける。
 ねぇ、八雲。
 思いあっていれば引き寄せられるという言葉を、本気で信じてもいいかな。
 そしたらさ、私、もう少し頑張れる気がするんだよ。
 八雲が虫でも動物でも何になっていても、私のそばにいてくれると、思えるなら。
 それだけで、生きていける気がするんだよ。
「ひとりでも、約束、果たすからね……っ」
 私は無意識のうちに鞄からスマホを取り出し、夕日にカメラのピントを合わせた。
 カシャッという音が響いて、美しい景色が切り出される。
 カメラのフォルダをそのまま開くと、八雲の写真が何枚も出てきた。
 ぼうっと窓の外を眺めているところ。
 カメラに気づいて呆れているところ。
 道端の猫を見つけて嬉しそうにしているところ。
 私はそれを一枚一枚スライドしながら、唇を強く噛みしめた。
 どの瞬間の八雲も、私は、忘れたくない。たとえ、生まれ変わっても。
「八雲、大好きっ……大好きだよ……」
 ――もし、死んでも生まれ変われるのだとしたら、多くの人は何になりたいと願うのだろう。
 今まで私は、性別も、顔も、声も、性格も、何もかも全く真逆の人間になりたいと、思っていた。
 私という人間が跡形もなく消えた世界で、生きていきたいと願ってきた。
 でもそれは、八雲と出会って変わった。私は君に気づいてもらうために、もう一度私として生まれたいと思った。
 もし人は二度と同じ人間になれないと言うのなら、私はどんな姿形になったって、きっと君を想う。
 生まれ変わって、全く違う人間になって、君のことを二度と思い出せなくなっても、心のどこかで君を想い続ける。
「眩しい……」
 夕日が、丁度水平線の中に沈むタイミングで、ダイヤのように強く光った。
 八雲が、大切な人は最後に光になると言っていたけれど、彼も最後にこんな景色を見たのだろうか。
 私は……、彼の光になれたのだろうか。
 分からない。だけど、その美しい景色を見て、止めどなく流れていた涙が止まった。
「八雲、私、ちゃんと生きるから、見てて……」