許されたくてここに来たわけじゃないけれど、その言葉は私の緊張感をほぐしてくれた。
「どうか責めないで。息子もきっと、そんなことは望んでいないはずだから」
「っ……」
「……来てくれてどうもありがとう」
 そんな優しい言葉を、言わせてしまったことが申し訳ない。
 今誰よりも優しい言葉をかけてほしいのは、八雲のお父さんのはずなのに。
 私はぶんぶんと首を横に振ってから、しっかりと八雲のお父さんの顔を見据えた。
「赤沢君は、余命いくばくもない私に、生きる希望を与えてくれました……」
「そうか……。うちの息子がまさかそんな存在になっていただなんて……」
「最後の日まで、私も一生懸命生きると誓います」
 静かに涙を流しながら、私は八雲のお父さんの前で宣言した。
 それが、今の私に唯一できることだと、思ったから。
 八雲のお父さんは一瞬目を見開いてから、すぐに八雲に似た優しい笑みを浮かべて、「ありがとう」と言ってくれた。
 八雲のお父さんの優しさを、そのまま受け止めるだけではダメだ。
 私は、八雲に助けてもらった人生を、死に物狂いで生きていく。それしか、恩返しの方法はない。
 受け入れるには……まだまだ時間がかかりそうだけど。
 そんな私を見て、八雲のお父さんはスッと立ち上がり、「息子の部屋に案内しよう」と言ってくれた。
「粋、ここはひとりで行ってきなよ」
「え……」
 天音が気を利かせて、そんなことを言ってくれた。
 戸惑っている間に、彼女は荷物をまとめ始める。
「赤沢君のお父さん。今日はありがとうございました。私はここで失礼させて頂きます。本当に、お悔やみ申し上げます……」
「そうか……、ありがとうね。気を付けて」
「はい」
 私の返事も待たずに、天音は荷物を持って立ち上がると、ぺこっとお辞儀をした。
 天音がいなかったら、私は今日ここまで来れていなかっただろう。
 感謝の気持ちを込めて、私も天音に頭を下げる。
 天音は小さく腰あたりで手を振ると、玄関へと向かっていった。

「階段が狭くてすまないね」
「いえ、とんでもないです」
 一段一段木製の階段をあがっていくと、一番奥に八雲の部屋はあった。
 八雲のお父さんはドアノブに手をかけて、扉を開けてくれた。
「ゆっくり見てくれていいから」
「え……」
「私は下で作業をして待っているね」