グッと涙をこらえて手を合わせ終えると、八雲のお父さんが優しく話しかけてくれた。
 私も天音も八雲のお父さんに向き直って、耳を傾ける。
「飛び降りようとした詳細は、まだ分からないけれど……心まで解決できることを願うばかりだよ」
 その言葉に、私はただ頷くことしかできない。
 あの女の子を救ってよかったのかどうかも……分からない。私の自己満足に過ぎないから。
「白石さん。君が一緒に女の子を助けようとしてくれたんだってね」
「わ、私を助けようとして、赤沢くんが……」
 そこまで言いかけて、私は言葉を飲み込んだ。
 ここで謝ったって、八雲のお父さんを困らせるだけだ。
 でも、私の代わりに八雲が命を失ったことは事実で。
 頭の中が真っ白になって、私はそのまま硬直した。
 粋が心配そうにこっちを見ているのが分かるけれど、何も言葉が出てこない。
「君の話は八雲からよく聞いていたよ」
「え……」
 言いづらそうにしている私に気を遣ったのか、八雲のお父さんは突然話題を変えた。
 私はようやく顔を上げて、膝に爪を立てるのを止めた。
「あの子は昔から、感情の起伏があまりなくてね、何があっても落ち着いてて、心配になるほどだった……」
 ……そうか。八雲のお父さんは、八雲の能力のことを知らないんだ。
 何度も生まれ変わっている八雲が幼い頃から落ち着いてしまっているのも、無理はない。
 八雲のお父さんは眉をハの字に下げながら、困ったように笑っている。
「何にも興味がなさそうで、友達も作らなくて、この子は将来どんな大人になってくれるのか、全く想像がつかなかった」
「そう、だったんですね……」
「けど、白石さんと親しくなってからの八雲は、楽しそうだった」
「え……?」
「君が今、大変な状況にあることも、知っているよ」
 八雲のお父さんは、涙で充血した瞳を精一杯優しく細めて、私に微笑みかけてくれた。
 私の病気のことも、八雲はお父さんに話していたんだ。
 そのことが嬉しくて、また泣きそうになってしまう。隣で天音がぎゅっと私の手を握りしめてくれた。
 しばしの沈黙が流れ、八雲のお父さんは壁にかけてある八雲の制服を見てから、数秒黙り込む。
「誰のせいでもないよ」
 それから、まっすぐ私の目を見て、そう言い切った。
 誰のせいでもない。その言葉が、じわっと胸の中に広がっていく。