■君を見つける

 お線香の香りだけが、空っぽな私の体の中に入ってくる。
 クラスメイト全員がお葬式に参列することになり、皆いつもよりぴしっと制服を着て、神妙な面持ちをしている。
 あまりに現実味のない出来事に、茫然自失したまま、私はただこの時間が過ぎていくのを待っていた。
 八雲の親族が次々に棺の蓋を開け、生花を手に取り“別れ花”を行っている。
 啜り泣く声が時折聞こえて、私は耐えられずに俯いた。斜め前にいる秦野君はずっと号泣している。
「遺族を代表して、皆様に一言ごあいさつを申し上げます……」
 丸い眼鏡をかけた八雲のお父さんが、出棺前に挨拶をしている。
 どうして今一番悲しんでいる人が、こんなときに全体を取り仕切らなければならないのだろう。
 八雲のお父さんの気持ちを想像すると胸が苦しくて、たまらなくなる。
 スタッフの指示で、霊柩車を見送るために場所を移動することになったけれど、私の足は信じられないほど重たい。
 ……どうして、こうなった。
 どうして、八雲がこの世界からいなくなった。
 私が無計画で女の子を助けようとしたから?
 私が土手に行って写真を撮ろうなんて言ったから?
 私が八雲に余命宣告されているなんて打ち明けたから?
 いったいどこまで遡れば、この運命を変えることができたのか分からない。
 外に出た私たちは、棺が霊柩車の中に運ばれるのを見届けて、沈黙する。
 大きなクラクションが鳴り響いてから霊柩車が出発し、私達参列者は、車が見えなくなるまで一礼をし、合掌した。
 なかなか顔をあげることができないでいた私の背中を、誰かが撫でた。
 天音が何も言わずに私の背中に手を優しく添えて、真剣な顔をしている。
 私は何も言葉を発せないまま、ただこの悪夢が覚めるのを待った。

 そして、何も受け入れることができないまま、学校に通う最終日となってしまった。
 母親たちには、辛いなら休んでいいと言われたけれど、何もしないでいると気がおかしくなりそうだったので、学校に向かうことにした。
 えりなと祥子はちらちらとこっちに視線を投げ、何かを聞きたそうにしているけれど、私は今日もロボットのように自分の席に座る。
『二人でふざけているうちに落ちた』
『心中しようとしたらしい』
『白石の自殺を止めようとしたんだよ』
『彼女なのに葬式で一度も泣いてなかった』