じとーっとした目で見ていると、八雲は「いやだって受験何回も受けてるし」と続ける。
 人生を何周も経験しているって、やっぱりすごいな。
 八雲の昔の話をもっと聞いてみたいと思うけれど、八雲はこっちから聞かないとなかなか話してくれない。
 入院中にゆっくり聞いていけばいいかな。
「そうだ、粋。油井前の洲、本土から一時間以上船乗るらしいよ」
「えー! 割と遠いなあ……」
「ね。かなり天候にも左右されるだろうし」
 今週の土曜日。私達は油井前の洲に本当に行くことになった。
 ちゃんと親にも相談して、了承も得た。相手が、私のことを助けてくれた八雲だったから特別に許してもらえたのだ。
 これは、私にとって、多分最後の小旅行だ。親もそのことを分かっている。
 日帰りの予定だけれど、八雲と綺麗な景色を存分に楽しみたい。
「土曜日が楽しみだなあ……」
「俺も。はやく土曜日になってほしい」
 つい心の声が漏れてしまうと、八雲は隣で優しく目を細める。
 八雲が時折見せる、その優しい目がすごく好きだ。
 笑うとふにゃっと目がなくなるところも、可愛くて好き。
 私の名前を呼ぶ声も、喉仏が上下している様子でさえも、すべてが愛おしく感じる。
「旅行先で、粋に渡したいものもあるし」
「えぇ、何なに?」
「秘密だよ」
「何それ、気になるじゃん」
 渡したいものが何なのか、すごく気になったけれど、八雲は「当日のお楽しみに」と言って、教えてくれそうにない。
 私は不満げな声を出しながらも、仕方なくそれを受け入れた。
ここは八雲の言う通り、当日を楽しみにしておこう。
 何てことない、高校生同士の他愛もないやりとりだ。
 こうしてただ会話しているだけで、八雲に対する思いが募っていく。
『私は……粋が、好き』
 突然ふと、夢花の言葉が胸の中に降ってきてひとりハッとした。
 人が人を好きだと思う気持ちの尊さを、私は今、噛みしめている。
 好きという思いが一致するなんて、ほとんど奇跡みたいなものだ。
 八雲とこんな風に今いられることを、私はまだ、半分夢のように思っている。
 今の私を夢花が見たら、いったいどう思うだろう。
 夢花の〝好き〟を否定した私が、好きな人と結ばれている。
 私が夢花の立場だったら……、きっと悲しい気持ちになる。