『俺が粋に見せたいと思う景色、全部回るから』
 八雲の言葉に、胸が熱くなった。
 そんなことを、考えてくれていたのか。
 頭の中に、私の骨の欠片を持って色んな場所を旅する八雲が浮かんできて、なぜかすごく嬉しくなった。八雲と一緒に、世界中を旅できるような気持ちになった。
 本当は一緒に行けたら、一番いいんだけど。
「絶対、約束だよ」
 そう言うと、八雲は電話口で『うん』と静かに頷く。
 とはいえ、私がいなくなったあとの八雲を想像するのはとても辛い。
 大人になった八雲に、私も会ってみたかったと、心から思う。
「ねぇ、八雲。次に生まれ変わったら、何になりたい?」
 悲しい気持ちになる前に、私は突然質問をぶつけてみた。
 八雲はしばらく黙り込んでから、うーんと唸る。
『何だろ……。想像つかないな。粋は?』
「私は、思いついてるよ」
『……どんな?』
「生まれ変わっても、私は私になりたいな」
 優しく問いかけてくれる八雲に、私ははっきりと答えた。
 少し前の私には、ありえなかった答えだ。
 ずっと、自分のことが嫌いで、人生がいつ終わってもいいと思っていた私からは、絶対に出てこない言葉。
 八雲は少し間をおいて、『そっか』と、再び優しく言葉を返してくれた。
「また粋として生まれて、八雲に会いに行くよ」
 同じ人間は二度と生まれないと、八雲は前に言っていた。
 それは分かっているけれど、願いを言うだけなら、いいでしょう。
『じゃあ、そのときまで、一旦離れるだけだね、俺たち』
「え……」
『ちゃんと見つけてよ。俺がどれだけ老けてても』
「ふふ……、うん」
 泣かない。もう、八雲の前では、涙を流さないと決めたんだ。
 残りの毎日は、できるだけ笑顔で過ごしたいから。
 はなを啜る音を最小限に抑えようと頑張っていると、八雲が突然『思いだした』と声をあげた。
「何を思いだしたの?」
『前に、粋が、死ぬときって、どんな景色が見えるのかって、聞いてきたでしょ』
「うん。空と海の境目みたいって、言ってたね」
『俺はまだ見たことがないけど、未練があると、その境目が強く光るんだって、聞いたことがある。閃光みたいに』
「え……?」
『最後に、大切な人が、光となって道を照らしてくれてるのかな』
 大切な人が、最後に光となって……。
 その話を聞いて、感動で鳥肌が立った。