八雲が提案してきたのは、油井前(ゆいまえ)の州(す)という場所。隠岐諸島にある観光地で、まるでウユニ塩湖のような光景が見られるらしい。
 自分の部屋で寝転がりながら、ひとまず送られてきたリンクを開くと、すぐに美しい画像が見られた。
「うわあ、綺麗……」
 夕空が鏡のように映し出されていて、海の上に人が立っている。
 冬場にだけ、平らな岩場が水面に現れるらしく、まるで海面に立っているような写真が撮れるのだとか。
 島根にこんな場所があったとは、なぜ今まで知らなかったのだろう。地名自体は聞いたことはあるけど……。
 髪をタオルで乾かしながら記事を読んでいると、突然スマホが電話で震えた。 
 相手は八雲だったので、慌てて通話ボタンをタップする。
「はい、もしもし」
『今大丈夫?』
「う、うん、大丈夫」
 前にも電話をしたことはあったのに、耳がくすぐったく感じる。
 自分の気持ちを自覚してから、八雲の声を聞くだけでドキドキするようになってしまった。
 普段話しているよりも、少しだけ低く聞こえる八雲の声に、集中して耳を傾ける。
『入院前の最後の土日どっちか、空いてたら行こうか』
「いいね、行きたい!」
『本物のウユニ塩湖行ったことあるから、それに近い場所に粋とも行ってみたいなと思って』
「え、本物見たことあるの?」
『うん。海外でバックパッカーまがいなことしてたときに』
 過去にそんなことをしていたのか。
 彼のどの人生のときかは分からないけど、私の人生の何十倍もの経験があるのは、正直羨ましい。
「一度は海外に行ってみたかったけど、来世にお預けかなあ」
 そうつぶやくと、八雲は電話口で押し黙ってしまった。
 暗い話題にしたつもりはなかったけれど、困らせてしまっただろうか。
『……ねぇ、ひとつお願いがあるんだけど』
 少し焦っていると、八雲は数秒経ってから深刻な様子でそう切り出した。
「え、何でしょう」
『粋の骨、俺にくれる?』
 思わず敬語になってしまった私に、八雲は予想の斜め上のお願いをしてきた。
 私の、骨……?
 そんなものをもらって、いったいどうするつもりなのだろうか。
『こんな話、本当はしたくなかったんだけど……ごめん』
「う、ううん……」
『俺、海外の色んなところ回るよ。粋の骨と一緒に。時間かかるかもだけど』
「え……」