少年は、私を庭の中央にあるガゼボへと誘った。真っ白いクロスをかけられたテーブルを見て、私は目を丸くする。
テーブルの上には、所狭しとたくさんの食べ物が用意されていた。
ケーキスタンドに盛り付けられているのは、いろんな形のスイーツに、クロテッドクリームの添えられたスコーン。それに分厚いハムをはさんだサンドイッチ。見たこともない果物もたくさんあって、そのどれもがみずみずしくて新鮮そうだった。誰かいた様子もないのに、ポットからは白く湯気が立ち上っている。
それは、本でしか知らなかった、貴族のお茶会そのものだった。
「どうぞ」
少年は、私のために優雅な仕草で椅子を引いてくれる。
まるで、お姫様になったみたい。
私は、どきどきしならそこへと腰を下ろした。服は汚れていたし体も疲れていたけれど、なるべく、淑女に見えるように、なるべく、気取って。
私の人生の中で、こんな風に貴婦人になれる瞬間なんて、もうないはずだから。最初で最後の、最高のお茶会だわ。
緊張する私に微笑みかけながら、少年は飲み頃になった紅茶をカップへと注いで、私の前に置いてくれる。
「わあ、おいしい……」
一口飲んでみたその紅茶は、今まで飲んだどの紅茶よりも美味しかった。まあ、紅茶と言えば、かろうじて色がついているのかあ? なんてものしか飲んだことないから、たぶん、どんな紅茶を飲んでも、そう感じるのかもしれないけれど。
「そう? よかった」
何が楽しいのか、その少年はずっとにこにこしたままだ。
「ね、このタルト、僕がとってきたイチゴを使ってるんだ。食べてみて。きっと美味しいよ」
「ありがとう」
少年が取り分けてくれたお皿を受け取って、さくりとタルトにフォークを入れる。一口食べてみると、甘酸っぱい香りが口いっぱいに広がった。
「んん……おいしい! こんなおいしいお菓子、食べたことないわ!」
「まだあるよ。こっちのフールもどうぞ。あんずのコンポートはどう?」
甘いものなんて、一年に一度、食べられるかどうかだったから、目の前にあるスイーツに私は手と口が止まらなくなる。
は、と気づくと、次々にお菓子をたいらげていく私を、少年は楽しそうに見ていた。見れば、その少年が食べ物に手を付けた様子がない。
「あ……ごめんなさい」
急に恥ずかしくなって、持っていたサンドイッチを、そ、と自分のお皿に戻す。
「私、もしかして、あなたの分まで食べてしまったのかしら?」
私は少し上目遣いになって聞いてみた。
「ううん、今は食欲がないだけ。遠慮しないで、どんどん食べて」
少年は、私のカップに紅茶のおかわりを注いでくれる。
「でも……」
「君の食べっぷりって、見ててすっごく気持ちいい。こっちまで楽しくなっちゃうよ。おかわりなら、いくらでもあるからね」
そうは言われても、さすがにこれだけ食べると、おなかはいっぱいだ。
おなかがいっぱいになるまで食べたなんて、どれくらいぶりだろう。最後の晩餐にするには、十分すぎるほど豪華な食事だったわ。
これ、ちびたちにも食べさせてあげたいなあ。あの子たちも甘いもの好きだから、きっと喜ぶ。
「あなた、この家の人なの?」
一通り食べつくしてようやく人心地ついた私は、紅茶を飲みながらバラ園の向こうに見える館に目を向けた。
外から見ても、その館がかなり豪華な建物であることはわかる。なんでこんな不便なとこに作ったんだろう。どこかのお金持ちの別宅なのかな。当然ここに住んでいる目の前の少年だって、私みたいな貧乏人じゃない、お金持ちのお坊ちゃま。着てるものも、作業着って言ってたけど、かなり上質の生地を使っているもの。
テーブルの上には、所狭しとたくさんの食べ物が用意されていた。
ケーキスタンドに盛り付けられているのは、いろんな形のスイーツに、クロテッドクリームの添えられたスコーン。それに分厚いハムをはさんだサンドイッチ。見たこともない果物もたくさんあって、そのどれもがみずみずしくて新鮮そうだった。誰かいた様子もないのに、ポットからは白く湯気が立ち上っている。
それは、本でしか知らなかった、貴族のお茶会そのものだった。
「どうぞ」
少年は、私のために優雅な仕草で椅子を引いてくれる。
まるで、お姫様になったみたい。
私は、どきどきしならそこへと腰を下ろした。服は汚れていたし体も疲れていたけれど、なるべく、淑女に見えるように、なるべく、気取って。
私の人生の中で、こんな風に貴婦人になれる瞬間なんて、もうないはずだから。最初で最後の、最高のお茶会だわ。
緊張する私に微笑みかけながら、少年は飲み頃になった紅茶をカップへと注いで、私の前に置いてくれる。
「わあ、おいしい……」
一口飲んでみたその紅茶は、今まで飲んだどの紅茶よりも美味しかった。まあ、紅茶と言えば、かろうじて色がついているのかあ? なんてものしか飲んだことないから、たぶん、どんな紅茶を飲んでも、そう感じるのかもしれないけれど。
「そう? よかった」
何が楽しいのか、その少年はずっとにこにこしたままだ。
「ね、このタルト、僕がとってきたイチゴを使ってるんだ。食べてみて。きっと美味しいよ」
「ありがとう」
少年が取り分けてくれたお皿を受け取って、さくりとタルトにフォークを入れる。一口食べてみると、甘酸っぱい香りが口いっぱいに広がった。
「んん……おいしい! こんなおいしいお菓子、食べたことないわ!」
「まだあるよ。こっちのフールもどうぞ。あんずのコンポートはどう?」
甘いものなんて、一年に一度、食べられるかどうかだったから、目の前にあるスイーツに私は手と口が止まらなくなる。
は、と気づくと、次々にお菓子をたいらげていく私を、少年は楽しそうに見ていた。見れば、その少年が食べ物に手を付けた様子がない。
「あ……ごめんなさい」
急に恥ずかしくなって、持っていたサンドイッチを、そ、と自分のお皿に戻す。
「私、もしかして、あなたの分まで食べてしまったのかしら?」
私は少し上目遣いになって聞いてみた。
「ううん、今は食欲がないだけ。遠慮しないで、どんどん食べて」
少年は、私のカップに紅茶のおかわりを注いでくれる。
「でも……」
「君の食べっぷりって、見ててすっごく気持ちいい。こっちまで楽しくなっちゃうよ。おかわりなら、いくらでもあるからね」
そうは言われても、さすがにこれだけ食べると、おなかはいっぱいだ。
おなかがいっぱいになるまで食べたなんて、どれくらいぶりだろう。最後の晩餐にするには、十分すぎるほど豪華な食事だったわ。
これ、ちびたちにも食べさせてあげたいなあ。あの子たちも甘いもの好きだから、きっと喜ぶ。
「あなた、この家の人なの?」
一通り食べつくしてようやく人心地ついた私は、紅茶を飲みながらバラ園の向こうに見える館に目を向けた。
外から見ても、その館がかなり豪華な建物であることはわかる。なんでこんな不便なとこに作ったんだろう。どこかのお金持ちの別宅なのかな。当然ここに住んでいる目の前の少年だって、私みたいな貧乏人じゃない、お金持ちのお坊ちゃま。着てるものも、作業着って言ってたけど、かなり上質の生地を使っているもの。