その日以来、私は菊臣さんや藍一郎さんに誘われない限り、二人に手伝ってもらいながら両親を探した。

 朝餉のすぐあとに二人に会いにいき、夕餉までに戻り、二人と別れてから一助に結果を報告し、藍一郎さんと夕餉の支度をし、毎日の外出について触れられやしないかと冷や冷やする。

 誰とも口を利かず、一人で野菜を漬け、父の顧客の元へ野菜を売りに出ながら父の無事と帰宅を願っていた二年間が、いかに虚しいものであったか思い知るようだった。

手伝ってくれる人がいなかろうと、当てがなかろうと、私も探しにいけばよかったのだ。それ以前に、私も父と共に出ればよかったのだ。十五ともなれば大人の仲間入りを果たす頃、多少の苦労には耐えられるはずなのだ。

 ある朝、爨で野菜を切りながら、藍一郎さんに「寒菊」と呼ばれた。内心びくつきながら「はい」と答える。

 「この頃ずっと、日中どこにいっているんだ」

 「……散歩です」

 「一人でか」

 なにもいえなくなった。私の噓を暴こうしているのか、なにも知らずにそういっているのか。私にはわからなかった。

 「どうして宿の方へ向かう」

 どくん、と跳ねた胸の奥の振動が体中に広がった。飛び上がるように体が揺れた。

 「どうして、あれらに拘るんだ」

 「拘っているわけでは、」

 「犬と狐と出かけているだろう」

 「ちょっと、親しくなったのですよ」

 藍一郎さんは包丁を置いて私と向かい合った。真っ直ぐに眼を見詰めてくる。その双眸には、責めるような縋るような、複雑な光が揺れている。

 「頼むから、あまりあれらと接触するな。寒菊は後々、ここを継ぐのだろう。刺激がほしいならそれからでいいだろう。きっと嫌というほど危険が迫ってくる。どうして今から、安全に過ごせる今から、あんなものと接するのだ」

 「……やはり、私には彼らが悪いものとは思えないのです。藍さんと同じです」

 「寒菊とあれらにどんな紲がある」と声を上げる藍一郎さんの悲痛に、種族、と答えてしまいたくなる。

 「寒菊も菊臣と同じだ、優しいんだ、隙だらけなんだよ」

 「藍一郎さん」

 彼は濡れた眼を瞼で隠して項垂れた。

 「私は決して、優しくありません」

 「優しい者が自ら優しいというか」と彼は弱く笑う。

 「俺は、お前も失いたくない、」

 「心配には及びませんよ。私は少しも、優しくなどないのですから」

 優しさに付け入るのはむしろ、私の方だ。