蓮が、誰も居ない教室で、梨紗の筆箱を開ける。

そして、何かをポケットに入れた。

ビジョンは、突如、切り替わって、小学校の飼育小屋の前に蓮が佇んでいる。

蓮が、梨紗の背中を見送ったあと、怖がるウサギに無理やり、農薬を混ぜた団子を口に詰めていた。そして、梨紗にプレゼントした髪留めをウサギの口に差し込んだ。

花火は、ゆっくり根本まで、少しずつ、見えなかったモノを見せつけながら、燃え上がっていく。


火傷の痕がある左手が、昔、両親が乗っていた白のセダンの後輪に、キリで穴を開けている。すぐにパンクしないように、気づかれないように、でも確実に、空気を抜いて、事故に見せかけて。

爆ぜ終わった花火は、虚しく白い煙だけを吐き出しながら、静かに藍の空の星に向かっていく。

蓮は、暫く何も言わなかったし、梨紗も言わなかった。

随分前から、二人に言葉は必要なかったから。


「梨紗、あの時みたいだな」

蓮は、しゃがみ込むと、あの時と同じ線香花火に火を付ける。梨紗は、蓮と肩を並べて線香花火に灯す。

ーーーーきっと、これが蓮との最後の花火だから。

二人で初めて手を繋いだ温もり、二人で温め合って、孤独を分け合った夜、涙を掬って抱きしめてくれた時に聞こえた鼓動。

線香花火の儚い光の中に、淡い恋と呼べる瞬間の情景が映し出せれる。蓮と梨紗を、最後に試すように。

線香花火は、小さな火花をパチパチと散らしながら、最後はアスファルトの床に叩きつけられるように堕ちて消えた。

明かりのなくなった夜の闇は、月の光だけがほのかに蓮と梨紗を照らしていた。

蓮が立ち上がった。

「梨紗」

思わず身体が跳ね上がる。心臓はドクンドクンと飛び出そうな位に音をたてて、呼吸が苦しくなってくる。

「見ちゃいけないモノってさ、見たらどうなると思う?」

「蓮……私……」

「俺は、梨紗を独り占めしたいんだ。誰にも渡さない、今までも。……これからも」

蓮が、梨紗を見下ろしながら、月の光を背に笑った。

唇を三日月に模して。梨紗は、最後に残して置いたススキ花火を、左手に持つと火をつけた。

 「……蓮」

「愛してるよ。……死んでもずっと」

蓮の両手が、梨紗の首に触れる。



そしてーーーー嗤った。高らかに嗤ったの。