「蓮野さん、死体見た後、よく食欲湧きますね」

後輩の、相川流唯(あいかわるい)が、平日の真昼間から、一人焼肉専門店でハラミを焼く千夏を眺めながら、隣の席に腰掛けた。

「何?僕にGPSでもつけてんの?」

白いご飯に、焼けたばかりのハラミを一枚乗せると、大きな口でご飯とハラミを放り込む。

「つけてませんよ、鑑識の持田(もちだ)さんが教えてくれたんです。今日上がった死体が、腹を鋭利なナイフで一突きされた後、内臓引き摺り出されて、血まみれだったから、蓮野さんは、焼き肉だろうって」

「あぁ、持田か」

「同期らしいですね」

「まあ」

「仲良しなんですか?」

相川が、店員に、わかめスープと、ビビンバを注文する。

「何、尋問?」

「まさか。蓮野さん、尋問したら、女遊び以外に何か出てくるんですか?」

「煙草のポイ捨て」

「最低ですね」

(女遊びね……)

どんなにいい女を抱いても、自分が満たされることはない。心の中にいるのは、たった一人だけだから。

「何?肉食べない訳?」

ネクタイを胸ポケットに入れて、ミノを咀嚼しながら、千夏は呆れ顔で相川を見下ろした。