蓮は、慎重にハンドルを握りながら、左手で梨紗の右手をそっと握る。

「愛してるよ、梨紗」
「蓮……ありがとう」

車は、緩やかに弧を描くと、誰もいない命吹山(いぶきやま)の頂上に、車を停める。

星が近い。瞬く星は、火をつけて燃え上がる花火の、火の粉のようにも見える。

「恋人同士の最後の花火だな、来年からは夫婦で花火か、いいね」

蓮は、微笑むと向かい合って、左手で梨紗の左手に取った。

するりと薬指のそれを親指でなぞると、キスを落とした。

「早くしたいな」
「どの意味?」 

梨紗が、目を細めると蓮が少しだけ照れて、花火だよと言った。
 
マッチで、蝋燭に火を灯す。

「これにしよっかな、色が変わるやつ」

梨紗は、変色花火に火を付けた。じゃあ俺は、と蓮が、スパーク花火を手に取る。

あっという間に、チリチリと燃え上がり、仄かな赤い閃光が、私達の視界を奪う。


ーーーー不思議な感覚だった。
花火の閃光を、飲み込むように白い煙が、私達を包み込み、ビジョンを映し出す。



蓮が、小さな手で、何かを覗き込みながら、シャボン玉の液をトクトクと流し入れていた。
視点は、切り替わり、目の前の小さなメダカは泡を吹いて死んだ。

「え?何だ今の?」
梨紗は、見えないフリをした。

「どうしたの?蓮」

「いや、なんでもない」

今度は、蓮のスパーク花火が、パッと花開くようにその花弁が跳ねて、まるで小さな炎の妖精がダンスするように、軽快に跳ねて爆ぜていく。