1コールで、でないことなんて分かってる。3コール目で出た電話の相手は、ご機嫌斜めだ。

「もしもし」 

『何?わかってると思うけど、僕、忙しいんだよね』

花灯は、ガラス戸の外に出て、家の裏手に回ると、太陽の光に目を細めながら、来未に聞こえないように、声のトーンをさらに落とした。 

「滅多にお前に電話をかけない俺が、なんでわざわざ、かけたのか、わかってんだろ」

『全くわからないね』

面倒臭気に答える声に、苛立ちそうになる。

「じゃあ言ってやるよ……来未には手を出すな」

『何のこと?』 

「分かんないとでも思ってんのかよっ」

語尾を強めた、自身の声に電話の向こうから溜息が聞こえてくる。

『へぇ……ただの猫に随分執着するんだな。そもそも、名前まで教えるなんて、お前らしくない』

「千夏こそ、死体山盛りで忙しいくせに、まだ死体作る気か?」

昨晩は、危なかった。自分が帰るのがあと少し遅かったら、来未は消されていた。それも、髪の毛一本残さずに、まるでこの世に初めから存在して居なかったかのように。