「蓮野さん、事件ですよ!遅いですよっ」
紺色のスーツに、同じく紺色の水玉のネクタイを緩くぶら下げた長身の男を睨みながら、刑事第一課に所属する相川瑠唯は眉を寄せた。
「あ、ごめんね、寝坊しちゃって」
蓮野はわざとらしく、綺麗にセットされた髪の毛を片手で、乱してみせる。
「で?」
長身を折りたたんで、青いビニールシートに覆われている死体をチラッと覗くと、蓮野千夏は、クスッと笑った。
「えー……ドン引きなんですけど、よく、死体見て笑えますね」
「相川に笑ったんだけど?」
「え?」
相川は、被害女性の私物と見られるものを一つずつ写真に収めてから、ビニールの袋に入れていく。
「蓮野さん、それどういう意味です?」
「事件じゃねぇよ、これは、ただの不慮の事故だな」
「え?何でそんなことわかるんですか?」
相川は、一括りにしている長い髪を揺らしながら、蓮野を見上げて、ピンク色のルージュの塗られた唇を、尖らせた。
「昨日は、野外イベントがあったんだ。死んだ女性に何があったかまではわからないけどね、ビール飲んで、酔っぱらって、手すりから滑り落ちて溺死した」
「え?じゃあ何で鞄のものが散乱してんですか?」
蓮野は腕を組みながら、形の良い唇を引き上げた。