「分っかりやす」

この男は、裏口から入ったのか。確かに裏口の鍵は閉まっていた、でも、簡易な鍵だ。少し知識があれば、いくらでも開けられる。

でも2階の木製階段は来未が登っただけで軋む。そんな音一切しなかった。

「殺しにきたの……?」

一瞬、男の目が僅かに開いた。

「へぇ、意外と健気なんだな……僕に何か話す位なら、殺されてもいいって訳だ。アイツに惚れたか?」

男の腕が、来未の首を掴む。防衛本能で咄嗟に、男の腕を掴む。

スウェット姿だから、わからなかった。男の盛り上がった筋肉と浮き出た血管がスウェット越しでもわかる。

片腕なのに、充分すぎるほど圧迫されて、脳の中が熱くなって呼吸はほとんどできない。

「だから……猫は早く始末しろって言ったのに……」

目が開けていられない。脳みその酸素は枯渇して、意識は、どんどん深く堕ちて遠ざかる。

罪を犯した自分には、……こんな最期が丁度いいのかもしれない。どうせ、死ぬつもりだったから。この世に未練など何もない。

薄らいでいく意識の中で、リンッと花灯が呼び鈴を鳴らす音が、聞こえた気がした。

ーーーー花灯。

浮かんだ、最期の言葉は、彼の名前だった。