『返事に困るときの花灯のクセだよ』

『ちゃんと、見とかないと落ちるぞ』

段々と、オレンジの玉の光も小さくなって、辺りを散らす火花も、勢いがなくなっていく。

『花灯……蛍ってね、死んでも光ることがあるらしいよ』

『え?』

『きっと、……大好きな人にもう一度会いたいのかも、知れないね』

少しだけ寂しげにした蛍は、手に持っていた消えた線香花火をバケツにいれた。かすかに、火が完全に消える音がしてから、蛍は隣にしゃがみ込んでいる、花灯のスマホを覗き込んだ。

『綺麗に撮れてる、有難う、花灯』

そう言って笑った蛍は、もう居ない。禁煙してくれと怒る蛍も、そばに居てと泣く蛍も、大好きだよと抱きしめる蛍の温もりもない。

ーーーー蛍達は、誰かに殺された。

俺は、線香花火が嫌いになった。花灯という自分の名前さえも。

花灯は、しばらく操作したソレを元通りの場所に戻してから、夜空を見上げた。

落ちてきそうなほどの満天の星空は、まるで蛍が発光しているみたいだ。

『花灯、大好きだよ』

夜空から、降ってきた蛍の声を掻き消すように、花灯は、暗闇の公園を後にした。