「へぇ、知らなかったな。滋賀にこんな綺麗なドライブコースがあるなんて」

命吹山(いぶきやま)って言ってね、全ての命はこの山から生まれたって神話があるらしいの。平日はハイキングコースにもなってて、地元のお年寄りたちも登るそうよ、バス停もあるしね」

「そうなんだ。いやしかし真っ暗だな、ハイビームじゃなきゃ、前、見えないや」

いつも安全運転の蓮は、緩やかにアクセルを踏みながら、慎重に月明かりだけが照らす山道をゆっくり進んでいく。

もう15分ほど登ってきたが対向車はおろか後ろから車が来る気配は無い。

「蓮、今日は貸切りかも」
「何?梨紗が?」

意地悪く口角をあげる蓮を、梨紗は、見つめていた。
蓮のこの顔が好きだった。

蓮がカーブを曲がり、少しだけ真っ直ぐな道に出たところで、早く一緒に暮らしたいな、と呟いた。

「来月にはずっと一緒だよ。あ、山頂には永遠の愛を誓える鐘があるから、せっかくだから鳴らしたいの」

「はははっ。梨紗は本当パワースポットとか、縁結びとかそう言うの好きだね」

蓮は、形のよい薄い唇を持ち上げながら、曲がりくねった山道をゆっくりと進んでいく。

「梨紗、どうして急に花火しようと思ったの?」

「蓮と最後に花火したの小さい頃でしょ?
その時、私が火傷させちゃって……花火は綺麗だけれど何だかこわくて、でも、これからずっと一緒だし、結婚前にちゃんと気持ちに整理つけたくて」

蓮が、小さな溜息をついた。

「僕は、逆に梨紗が忘れられない位の傷を、僕につけてもらって、良かったと思ってる位なのに」

「どういう意味?」

「梨紗は、僕に傷を追わせたことを気にしてるかもしれないけれど、僕は、この手を見るたびに梨紗といつも一緒に居るみたいな気持ちになって、離れてても幸せなんだ」