根元まで花火は、火花をゆっくり散らし終わると、ビジョンは、ふわりと白い煙が、夜空に吸い込まれるようにして消えた。
「人殺し」
体がビクンと反応した。
「ほ……蛍……」
西川の顔が、あの子の顔に見える。違う。そんな訳ない。
ーーーーだって蛍は死んだから。
妬ましかった。ずっとずっと大樹が好きだった。大樹しか欲しくなかった。それなのに、大樹は、蛍に恋をした。
綺麗な顔してるクセに、自信なさげで、気取った所もなくて、大人しくて穢れがない純真な笑顔が大嫌いだった。
『文香ちゃんだけが友達だから』
馬鹿じゃないの。友達なんかじゃない。だから、そんな曇りの無い綺麗な瞳で映さないで。
だから大樹は蛍を選んだんだって、見せつけられてる気がするから。嫉妬から逃れられない。嫉妬でしか欲望を満たせない。一番欲しいモノが手に入らないと知った時から。
「もうやめてっ!」
西川が、ゆっくりと、ススキ花火に手をつけた。もうこれ以上見たくない。自分の罪も、嫉妬にまみれた醜い顔も何もかも……。
思わず後退りする。文香は、思わず鞄の物を投げつけていた。
「来ないで!」
「バイバイ」
小柄な文香がススキ花火の、煙を充分に、吸い込んでから、西川は、強く文香の胸を突いた。遠くから歓声が聞こえる。イベントの拍手と喝采に包まれながら、文香は池に沈んで行く。
ゆっくりと、水面から、仄暗い奥の深淵を目指して飲み込まれた。