金曜の18時、文香はタイムカードを押すと、
ゆっくりと制服を脱ぎ始める。

週末会えないからと、昨日、章介が文香の家を訪ねてきたのだ。真っ赤な痕を更衣室の鏡を、眺めながら、文香は、自分の身体を見つめて満足げに笑う。

ーーーーその時、スマホが鳴る。

液晶画面を見て、文香は一瞬、躊躇う。登録はされていない。公衆電話からだ。嫌な予感しかしない。

「……もしもし」

途端に動悸がしてくる。脳みそが、もう忘れていた名前を思い出そうとする。永遠に忘れたかった名前。あの子の笑顔。

『久しぶりね、アタシ』

その声に記憶を辿り、文香は頭が真っ白になる。

「やめて!何なの?いきなりかけてきて、もう私は無関係でしょ」

『無関係?罪人でしょ?』

「罪なんて犯してないわ……」 

『家の前で待ってる』

「ちょっ……何で家を……」

ガシャンと受話器の置かれる音がして、思わず、肩で息をしていた。生きた心地がしない。口止め料は、もう充分支払いした筈だ。

「あら?下着姿でどうしたの?」

ビクンと体が跳ねる。振り返れば、翔子が、オレンジ色のルージュを持ち上げながら、薄く笑っていた。