「……来未は、猫だよ」

「え?」

きょとんとした、来未を見ながら、珍しく花灯がクスッと笑った。

「迷い猫のいいとこはさ、いつでも次の住処に移動できるとこだよ」

花灯は、来未から視線を外して、パソコンを打ち終わると、パタンとしめた。

(迷い猫……それは、私が、いつでも此処を出て行っていいということなのだろう)

花灯は、立ち上がると、ショーケースの呼び鈴を、リンと一度だけ鳴らした。

ーーーー花灯は何も言わない。

来未は、すっと立ち上がるとグラスを片手に二階へと上がった。

軋む木製階段を上りながら、まるで、躾けられた飼い猫みたいだなと、来未は、可笑しくなった。