花火屋には、大体2日に一回のペースで、お客様が訪れる。

来未は2階の和室から、花火を受け取って帰る人達を眺めるのが日課になっていた。

若い人は勿論、働き盛りのサラリーマン、どこにでもいる主婦、初老の優しそうなご婦人、イマドキの学生、年代は様々だ。

皆、花火を受け取ると、浮き足立って帰っていく。来未はそれが、人間の汚い部分を目にしてるようで心が苦しくなる。自分もあの花火を復讐に利用したクセにだ。

(偽善者だな……)

来未は、窓辺から頬杖をついたまま、花灯から、花火を受け取りながら、歩いていくピンクのプリーツスカートの女性を眺めながら、空を見上げた。

お客様が来る時間になると、花灯は、必ずショーケースの上の呼び鈴を鳴らす。

ーーーー来未に、二階へ上がれという合図だ。

基本、花灯は大事な事は一度しか言わない。

「これ鳴らしたら、二階へ」

たしかそう言ったと思う。

「え?二階?」

聞き返してもほとんど返事は返ってきたためしがない。

花灯は今日も何も話さず、ひたすら、パソコンに向かっている。

花灯と暮らし始めて1か月たち、役割分担も慣れてきた。食事は、朝と昼が、花灯、夜は、来未が作る。黙っていれば、3食を全て花灯が作るのが申し訳なくて、二週間たった頃、来未から、家事の分担を申し出たのだ。

「じゃあ夜だけ作って」

「夜だけ?」

「朝と昼作るのは元々、日課だから」

花灯は無表情でそういうと、パソコンの画面に目を移す。

日課?おそらく花灯は、此処で誰かと暮らしていた。もしくは、此処ではない何処かで誰かと暮らしていて、引っ越してきたんだろう。

その誰かは……恋人。

そんな気がした。食器も全て2組、そして、私に貸してくれている、洋服。

花灯は、洋服のない自分に、古びた和箪笥から女性物の洋服を取り出して、渡してくれた。

サイズがピッタリで驚いたのを覚えている。
もしかしたら、背格好が自分と似ていたのかもしれない。