保管庫の扉のドアノブを回せば、すぐに中に引っ張りこまれて、西川が抱きついてきた。

オーガニックだがなんだか知らないが、西川の、きついシャンプーの香りに思わず顔を歪めそうになる。

「章介っ……もう我慢できないっ」

「翔子、随分とご立腹だな、どした?」

「あの生意気な小娘、キスマークを見せびらかせてきたのよ!あれつけたの章介でしょう?!」

西川は、目を釣り上げると、捲し立てるように文香の悪口を連ねて、やがて、苛立ちを含んだ視線は、章介にむけられる。

「仕方ないだろ、部長に紹介する代わりに抱いてくれってきかないんだ」

俺は、ため息混じりに嫌悪感を露わにして見せた。

「嘘ね、許せない」

西川の目つきが変わる。

「俺だって嫌だったさ、翔子のこと考えながら抱いたんだよ」

西川は、俺を見上げて睨みつけたままだ。

いつもなら、この辺りで機嫌を直すのに心底面倒になってくる。

「いい加減にして!じゃあ、そろそろ責任とってよね」

はははっと自分でも驚く位乾いた声が出た。

「結婚しようってこと?」

「当たり前でしょ?あの子には、結婚エサにしてるくせに」

章介は空気の薄く感じる保管室から酸素を取り込むように、ネクタイを緩めた。

(面倒極まりないな……遊びと本気の区別もつかないなんて、本当に馬鹿な女だ) 

「分かったよ、文香にはもう近づかない、部長に紹介してもらう約束も取り付けたし、用無しだよ。……欲しいのは翔子だけだ」

「本当に?」

「あぁ、土曜日、俺の部屋に来ないか?」

「勿論!嬉しいっ……泊まっていい?」

途端に甘えた声で西川が俺の首に手を回す。

「当たり前だろ、翔子しか抱きたくない」

目一杯取り繕った笑顔だが、初めて家に誘ったことが、余程嬉しかったのだろう。西川に気にした様子はない。

「分かったよ。じゃあ……そろそろ翔子の甘い声が聞きたい」

章介は、西川を壁に向かって立たせると、顔を歪めながら、スラックスのベルトを外した。

薄暗い天井を眺めれば、花火屋から届いたアカウントの文字が、はっきりと頭に浮かんでいた。