百貨店を出て、角を曲がり、一つ路地を入ったところで、男は煙草を咥えながら、こちらを待ちくたびれたように見ていた。
「あのー……買ってきましたけど」
「顔、覚えた?」
男は百貨店の紙袋に見向きもせずに、長い前髪を揺らしながら、来未に訊ねた。
「覚えました。名前も名札で確認しましたし……」
「男の顔も見たか?」
「はい、でも、写真で見せて頂いた方ではなかったと思います」
男は、黙って煙草を蒸すと、ビルの隙間から見える小さな青空に向かって、静かに煙を吐き出した。
「お疲れ様」
男は、それだけ言って歩き出す。ただ、その歩みはゆっくりだ。来未が着いていきやすい速度で歩く。
あの日、花火屋の男に連れられてきて、一緒に暮らすようになってから、1か月がすぎていた。
男が、急にピタリと足をとめて、来未を振り返る。
「え?」
男は迷うことなく、来未を狭い路地の壁際に押しやると、来未の顔の右側に手をついた。
見上げれば、長い前髪から綺麗な切長の瞳が、こちらを見下ろしていた。
想像以上の端正な顔立ちに思わず顔が熱くなるのが分かる。
「ちょ……待……」
「あのー……買ってきましたけど」
「顔、覚えた?」
男は百貨店の紙袋に見向きもせずに、長い前髪を揺らしながら、来未に訊ねた。
「覚えました。名前も名札で確認しましたし……」
「男の顔も見たか?」
「はい、でも、写真で見せて頂いた方ではなかったと思います」
男は、黙って煙草を蒸すと、ビルの隙間から見える小さな青空に向かって、静かに煙を吐き出した。
「お疲れ様」
男は、それだけ言って歩き出す。ただ、その歩みはゆっくりだ。来未が着いていきやすい速度で歩く。
あの日、花火屋の男に連れられてきて、一緒に暮らすようになってから、1か月がすぎていた。
男が、急にピタリと足をとめて、来未を振り返る。
「え?」
男は迷うことなく、来未を狭い路地の壁際に押しやると、来未の顔の右側に手をついた。
見上げれば、長い前髪から綺麗な切長の瞳が、こちらを見下ろしていた。
想像以上の端正な顔立ちに思わず顔が熱くなるのが分かる。
「ちょ……待……」