「え?」
「君は、初めから、誰も消去するつもりがなかった。何なら、あの男に、殺されても良かったし、殺されなくても、自首するつもりだっただろ?」
「それは……」
「罪を犯した奴は消去され、金に目が眩み、顔しか能のない奴は、その醜い顔で、残りの生涯を生きていく。クズ共には、お似合いの結末だな」
言葉に詰まった来未に、男が、無機質な声で言い放った。
「罪には罰を、復讐には救済を」
男は、今朝の朝刊を、こちらに、ぽいと投げると、襖を閉めて出て行った。
布団の上に投げられた朝刊を、来未は1ページ捲る。一面の片隅に、小さく見慣れた二人の男の顔写真が掲載されている。
『職場でのハラスメントが原因か?殺人事件発生』
○△商事株式会社の事務所が入る屋上で、課長代理を務める谷部健斗(26)が変死体で発見。死因は一酸化炭素中毒と見られるが、凶器は発見されていない。
現場に倒れていた、同僚の藤野奏多は、顔面が焼け爛れており、重傷。側に落ちていた、手筒花火からは、谷部の指紋が検出された。
警察は、回復を待って、話を聞く方針だが、藤野は、精神的に不安定であり、精神鑑定も同時に行うとのこと。
また、谷部に関しては、過去の女子大生達への強姦事件への関与が発覚しており、容疑者死亡のまま送検されることになった。
紙面には、来未の名前は、何処にもない。
どういう事なんだろう……。あの花火屋の男は一体。
そこまで考えてから、来未は、ようやく、安堵から、ふっと笑った。
「……終わったんだ……」
途端に、新聞の紙面には、大きな水溜まりがいくつもできる。
来未は、初めて泣いたかもしれない。あの事件が起こってから。
ーーーー必死だった。
片っ端から、奏多と付き合いのあった女の子達から、奏多について聞き、奏多の好み、好きな仕草、好きな香り、話し方、を調べ上げて、奏多好みの女を演じてきた。
殺してやりたい程に、憎い奏多に、何度も抱かれた。毎日、来未に、いらやしい目を向けてくる、由奈を死に追いやった健斗も、もういない。
「っ……ひっく……由奈…」
由奈は、妹だった。両親が事故で亡くなり、それぞれが親戚の家に引き取られてたが、時々連絡を取り合っていた。
来未には、由奈だけが、家族だったから。
来未は、雑に涙を拭うと、目の前に置かれた卵と人参の入ったお粥のお椀を手に取った。
一口、口に放り込む。昨日のお昼から何も食べてなかった。胃の中がじんわりと温かくなっていく。
ほんの少しだけ、その温もりが心まで伝わってきそうだ。食欲はなかったが、あの男が、自分のために作ってくれたと思うと、素直に有り難かった。
(一体あの人は何者なんだろう……)
なぜだか懐かしくて、優しい味に、来未の瞳からは、また一粒、涙が転がった。
「君は、初めから、誰も消去するつもりがなかった。何なら、あの男に、殺されても良かったし、殺されなくても、自首するつもりだっただろ?」
「それは……」
「罪を犯した奴は消去され、金に目が眩み、顔しか能のない奴は、その醜い顔で、残りの生涯を生きていく。クズ共には、お似合いの結末だな」
言葉に詰まった来未に、男が、無機質な声で言い放った。
「罪には罰を、復讐には救済を」
男は、今朝の朝刊を、こちらに、ぽいと投げると、襖を閉めて出て行った。
布団の上に投げられた朝刊を、来未は1ページ捲る。一面の片隅に、小さく見慣れた二人の男の顔写真が掲載されている。
『職場でのハラスメントが原因か?殺人事件発生』
○△商事株式会社の事務所が入る屋上で、課長代理を務める谷部健斗(26)が変死体で発見。死因は一酸化炭素中毒と見られるが、凶器は発見されていない。
現場に倒れていた、同僚の藤野奏多は、顔面が焼け爛れており、重傷。側に落ちていた、手筒花火からは、谷部の指紋が検出された。
警察は、回復を待って、話を聞く方針だが、藤野は、精神的に不安定であり、精神鑑定も同時に行うとのこと。
また、谷部に関しては、過去の女子大生達への強姦事件への関与が発覚しており、容疑者死亡のまま送検されることになった。
紙面には、来未の名前は、何処にもない。
どういう事なんだろう……。あの花火屋の男は一体。
そこまで考えてから、来未は、ようやく、安堵から、ふっと笑った。
「……終わったんだ……」
途端に、新聞の紙面には、大きな水溜まりがいくつもできる。
来未は、初めて泣いたかもしれない。あの事件が起こってから。
ーーーー必死だった。
片っ端から、奏多と付き合いのあった女の子達から、奏多について聞き、奏多の好み、好きな仕草、好きな香り、話し方、を調べ上げて、奏多好みの女を演じてきた。
殺してやりたい程に、憎い奏多に、何度も抱かれた。毎日、来未に、いらやしい目を向けてくる、由奈を死に追いやった健斗も、もういない。
「っ……ひっく……由奈…」
由奈は、妹だった。両親が事故で亡くなり、それぞれが親戚の家に引き取られてたが、時々連絡を取り合っていた。
来未には、由奈だけが、家族だったから。
来未は、雑に涙を拭うと、目の前に置かれた卵と人参の入ったお粥のお椀を手に取った。
一口、口に放り込む。昨日のお昼から何も食べてなかった。胃の中がじんわりと温かくなっていく。
ほんの少しだけ、その温もりが心まで伝わってきそうだ。食欲はなかったが、あの男が、自分のために作ってくれたと思うと、素直に有り難かった。
(一体あの人は何者なんだろう……)
なぜだか懐かしくて、優しい味に、来未の瞳からは、また一粒、涙が転がった。