ふいに、コツコツと革靴の音が、屋上のコンクリに響く。

煙草の匂いが、夜風と共に、奏多の鼻を掠めるとともに、どこかで聞いたことのある。男の低い声が聞こえた。


ジュッと花火に、火がつく音がするとともに、奏多の意識は、別の誰かに取り憑かれるかのように、身動きが取れなくなって、奏多の身体は、崩れ落ちていった。




ーーーぼんやりとした意識の中、ふわふわと規則的に、身体が揺れる。

「……誰……」

その質問に答えは返ってくることなく、来未は再び、意識を飛ばした。


どのくらい眠っていたのだろうか?

見知らぬ天井が見えて、起きあがろうとした時、黒い切長の瞳の男が、来未を、覗き込んだ。

「気分は?」 

喉元を強く圧迫された感覚だけが残っていて、思わず右手で首元に触れた。

大丈夫、呼吸は、できてる。

「大丈夫……です」

男は、お盆に乗せた、お粥を置くと、黙って立ち上がる。

「待って」

長めの前髪で顔はよく見えないが、先日、花火を受け取りにきたときのあの人だ。

「……どうして、助けてくれたの?」

お互い干渉しない。名前もきかない。メールも自動的に消去される。そういう約束だったはずだ。


「契約違反だからさ」

男は静かに笑った。