どのくらいの時間だったろうか、健斗は、膝をつくと、鼻血を出しながら、胸を押さえたまま倒れ込むと、やがて、死んだ魚のように宙をみたまま、濁った目になった。

「あっははははっ」

やった。害虫を駆除した快感に、奏多は、酔いしれた。

「こんなグズは生きてちゃいけない」

肩を震わせて奏多は、健斗の頭を足で踏みつけた。世の中のクズを、1匹始末してやった。

まさに最高の気分だ。


「その台詞……そっくりそのまま返してあげる」

奏多は、ビクリと肩を震わせ、振り向いた。


目の前に迫った、火花を上げる手筒花火はあっという間に、奏多の顔面に向かってくる。

一瞬だった。

「ぐああぁぁぁーっ!!」

顔面に焼け付くような激痛が走り、思わずよろけて、奏多は尻餅をつく。

一瞬、解放された痛みはまた、手筒花火を押し付けられて、皮膚がどろりと溶ける感覚と、目の玉の表面が、潰れて爛れていく。


その焼け付いた瞼の裏に、ゆっくりとビジョンが映しだされていく。

どこかの部屋で、話す二人の女。一人は、由奈…。もう一人は?


「……ひっく……妊娠したの」 
 
「由奈……」

涙ながらに話す由奈に寄り添う、もう一人の女は、ふわふわの髪を揺らしながら、由奈を覗き込んでいる。


「病院と警察にいこう?」

首を振る由奈を、そっと抱きしめる。

「誰にも言いたくない……話したくない……」

「ダメだよ、こんなこと許せない。その男も、カナタって、奴も……私がいつか必ず……」

由奈の小さな手を握りしめた、怒りに満ちた来未の姿が映し出される。

ビジョンは、ふっと消えて、真っ暗な闇のなか、焼け爛れた顔を押さえながら、奏多は両腕を伸ばした。

「騙したのか!」

奏多は、顔に押さえつけられてた手筒花火を頼りに両手で、目の前の細い首元を締め付けた。

「……ほんと…の…ク……ズは、……アンタよ」

「ふざけんなっ!俺のどこかクズなんだよ!クズは健斗だろ!由奈のことだって……ちゃんと反省しただろ!あれ以来、女も売ってない。俺はお前を守ってやろうとしたんだぞ!」


ーーーー俺は初めて愛した女を守るために。

奏多は、両手で掴んでいた来未の、細い首を、怒りに任せて力一杯、締め上げた。


「そこまでだ」