18時になり就業時間を、迎えると、他の営業マン達も、次々とパソコンの電源を落として、退社していく。
いつものように、退社前の来未が、健斗にコーヒーを差し入れた。
「谷部課長、お疲れ様です」
「ありがとう、もう上がっていいからね」
イヤらしい目つきはそのままに、健斗は白い歯を見せて笑った。
「はい、資料室で少し仕事を片付けて、そのまま帰宅します」
来未は、軽くお辞儀をすると、奏多のコーヒーを持ってデスクにコトリと置いた。
「ありがとう」
付箋には、『頑張ってね』、と書かれている。付箋を眺めながら、奏多は、来未の手を握った。
思わず、来未が、健斗の方を振り返った。
健斗は、こちらに背を向けて、麻雀雑誌片手に鼻歌を歌っている。
「好きだよ」
小さな声で囁くと、来未は頬を染めて、資料室へと駆けていった。
明日からは、堂々と来未と付き合える。
仕事もこのままの成績なら、やがて課長の座も自分のものだ。
奏多は、デスク下の紙袋を確認すると、込み上げてくる笑いを、押し込めながら、時計の針が進むのをコーヒーを片手に待つ。
長かった契約の終了もあと25分だ。
奏多は、誰にもわからないように、ほくそ笑んだ。