それから、奏多も連絡しなかったが、由奈からの連絡も勿論、途絶えた。

連絡しなかったというより、出来なかったのだ。

あの夜、自分が金という欲望に負けて、小さな生まれたばかりの愛情をいとも簡単に、売り飛ばしたことを、事実として認めたくなかったのかもしれない。

(俺は……クズだな) 

あの夜の出来事を、翌日、奏多は、健斗に問い詰めたが、そんな女、知らないの一点張りだった。

女を、売ったのはそれ一度きりだったが、その後から、健斗と奏多は、誰にも言えない秘密の共有と言う名の、上下関係ができてしまった。 



そしてーーーー1ヶ月後。

桃の花女学院の腰の軽い別の女と知り合い、ホテルのベッドで、転がってる時だった。

「ねぇ、奏多、最近、うちの学校で飛び降り?あったんだよね、同じ学部で、同じ一回生で」

「え?」

一瞬であの夜が甦る。飛び跳ねそうな鼓動を抑えながら、奏多は恐る恐る、訊ねていた。

「何て子?」

「あー…何だったかな、可愛らしいんだけど、おとなしめでさ、えっと……あ!」

大袈裟に手のひらをグーで叩く、可愛くも何ともない仕草をしながら、誰にでも腰を振る女の口から、その名が出ないことだけを祈る。

「橋野由奈」

奏多は、全身の血の気が、引いていくのが分かった。

「学校の説明じゃ、屋上の手すりに座ってて、うっかり落ちた事故らしいけどね」

どうでも良さそうな顔で、ピンクの花柄の下着を付け直すと、奏多の頬にキスを一つ落として、またね、と女は出て行った。

(違う……俺のせいじゃない……そう、ただの不幸な事故なんだ)

奏多は、スマホから由奈の名前と写真を全て消去すると、胸元の赤い跡を隠すようにTシャツを羽織った。

ーーーー俺じゃない。俺は関係ないんだ。

震えそうになる掌を、ぎゅっと握り締めると、奏多は、ホテルの部屋を後にした。

あの夜に蓋をして、鍵をかけて、誰にも見られないように。