結衣は、席をたつと、リビングの隅に鞄と一緒に置いていた、紙袋に手を伸ばした。

あらかじめ2本だけ持ち手を、短くしておいた花火を確認する。

花火を手に持ち、振り返れば、玲子がティーカップ 片手に美味しそうに紅茶を飲んでいる。

結衣は唇を緩めた。

「おまたせ」

結衣は、ケーキにバランス良く2本の花火を差し込んだ。

「暗くするわね」

結衣はカーテンをピタリと閉めて、部屋の電気を消した。

スマホの明かりを頼りに、玲子の前に座り直す。

「スパーク花火よ、誕生日にピッタリでしょ」 

花火屋から受け取った、梵字が印字されたマッチ箱からマッチを取り出し、火をつけた。

パァッとケーキを中心に火花が飛び散り、花が咲いたように光を放つ。

「綺麗……」
玲子がそう、つぶやいた時だった。


ーーーー暗闇のカーテンにぼんやりと、隠されたビジョンが映し出される。


ーーーーん?これは結衣(わたし)の後ろ姿?

『玲子、コーヒー入れてくるね』

立ち上がり、結衣が、キッチンへと消えていく。そして、視点は、ダイニングテーブルの横のチェストの上に置いてあるアクセサリーケースへ。

アクセサリーケースの中を開ける、その掌は結衣のそれではない。

パシャリとスマホの写真を撮る音がして、視点は再びダイニングテーブルへ。

こちらにコーヒーを、抱えながらやってくる結衣が、映し出される。

『ありがとう、結衣』

スマホを鞄に仕舞いながら、玲子が返事をした。

『お手洗い借りてもいいかしら?』
『勿論、どうぞ』

慣れた足取りで、リビングのダイニングテーブルに座る、結衣の後ろ姿を確認しながら、洗面所へと向かい、化粧鏡の扉を開ける。

結衣の化粧品を、細かく視線を動かして確認したあと、洗面所横のランドリーボックスを、覗き込んだ。

裕介の下着と、シャツ、結衣の昨晩身につけていたピンク色の花柄のランジェリーを眺めると、視点は再びリビングへと戻っていく。

扉を開ければ、結衣が振り返り、パソコンを開いて、手招きしている。

『玲子みて、このジュエリーデザイナーの初の洋服ブランドだって』

『あら、素敵ね』

結衣と玲子の談笑を、最後にビジョンは、切り替わる。


花火は煌めきながら、その輝きを見せつけながら、隠されていた秘密の、ビジョンを紡ぎ続ける。



ーーーー『裕介、今日も急患って言ったの?』

シングルベッドの上で、横たわる裕介を見下ろしながら、玲子の声が聞こえてくる。

『あぁ、玲子に会いたくてね』

ゆっくりと、裕介の首元に近づいて、真っ赤なキスマークがつけられる。

『こらこら、結衣に見られたらどうするんだよ』

『あら、見られる機会なんてないでしょ?セックスレスなんだら』

ふわりと脱ぎ捨てられた、ワンピースから、玲子の豊満な身体が、浮かび上がり、裕介の手でピンク色の花柄ランジェリーが外される。

『結衣より、よっぽど似合うよ』

『ありがと、裕介』

『それにしても、結衣には困ったもんだよな、玲子に嫉妬して、同じもの身につけるなんてさ……なんか抱く気も失せるな……そもそも玲子との方が、相性いいしな』

『ふふ、まぁ、いいじゃない。結衣の癖は、今に始まったことじゃないのよ。前から、私の真似ばかりだから、もう気にもならないわ』

そうして、二人の情事が映し出されて、花火が消えるとともにビジョンはプツリと途切れた。


燃え尽きた花火からは、白い煙が天井に
向かって、ゆらゆらと細長く揺れている。