家に戻ると、結衣は、戸棚に男から受け取った、紙袋を仕舞うと、すぐに、玲子にラインを入れた。

ちょうど、来週は、玲子の誕生日なのだ。誕生日と言っても、施設に保護された日なのだが、お互い誕生日とされる、その日だけは、二人で欠かさず、お祝いしていた。

『来週の玲子の誕生日、ケーキを、持っていくからお祝いしない?』

リビングの時計を見ると、時間はまだ17時、裕介は勤務中だ。

玲子からは、すぐに返事が帰ってきた。

『夜は予定があるんだけど、夕方までなら空いてるわ、ありがとう』

『じゃあ、また、お誕生日にね』

結衣は、スマホでメッセージを送信し終えると、冷蔵庫横のカレンダーを確認する。

玲子の誕生日、その日は、裕介は夜から出張の日だ。

結衣は思わず顔が綻ぶ。

さぁて、どんな誕生日になるのかしら。




玲子は、結衣の自宅から、わずか五分程の距離にあるアパートで暮らしている。

結衣は、ラピスラズリのピアスに、オレンジベージュの口紅を塗って、淡い紫色のワンピースに身を包むと、バースデーケーキを大事に抱えた。 

玄関に施錠すると、いつものように自宅前の細い道を一本入る。小さな公園があって、川沿いにある三階建ての小さアパートだ。昼間でも誰かと通り過ぎることは少ない。

裕介が、玲子の家に出入りしてたとしても、夜であれば、まず、近所の人にも気づかれずに、密会を重ねることは容易だろう。

101号室のインターホンを鳴らすと、すぐに玲子が出迎えた。

予想通り、自分と同じ淡い紫色のワンピースだ。

「あ!やだっ!誕生日まで、お揃いだ」 

耳に栗色の髪をかけると、ラピスラズリのピアスが光り、形の良い唇にはオレンジベージュの口紅が、ひかれている。

先月、玲子がうちに来た時に、有名ジュエリーデザイナーが、初めてプロデュースする30代から40代をターゲットにした、洋服の新ブランドの話を、パソコンでワンピースの画像を見せながら話したからだ。

「このワンピース、結衣も買ってたんだ」

しらじらしい。結衣はこのワンピースを予約したことも、その時、玲子に話していた。

限定100着。玲子もおそらく急いで予約して、結衣と同じワンピースを、手に入れたという訳だ。

「ほんと、私達って気が合うわね」
「ほんとね」

結衣はゆるりと笑うと、お邪魔しますと、断ってから靴を脱ぎ、リビングのダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。