「この紅茶どこの?」

玲子が、ティーカップを持ち上げながら、上目遣いに訊ねた。

「裕介の、病院の上司からのイギリス土産よ」

「通りで美味しい」

「でしょ?」

ティーカップを持ち上げながら、玲子に見せるように結衣は髪を耳にかけた。

「あ!また偶然だ!ラピスラズリのピアス」 

くったくのない笑顔を向ける玲子に、結衣は、不自然な笑顔で返す。

玲子はいつのまにか、自分と同じモノを、身につけているのだ。

なんなら、ティーカップ に口付けている、オレンジベージュの口紅にだってそうだ。

「私達って双子みたいだよね、以心伝心」
「そうだね」

私は、唇の端を無理やり持ち上げた。


ーーーー気づいたのは高校の時だ。

それまでは、消しゴムが同じとかシャーペンが同じとかその程度だったので、気にしたこともなかった。

むしろ、自分が気に入ったモノを、玲子も欲しくて、買ったのかと思うと、小さな優越感があった。


あれは、高校の体育の授業の時だった。

更衣室の中で、着替える間の女子の会話は、いつもありきたりだ。

誰の胸が大きいだの、キスマークがついてるだの、そこから、互いの恋愛の話をしながら、短い着替えの時間を、楽しんでいた。

その時、一つ年上の先輩と付き合っていた結衣は、身につける下着に、気を配っていた。

勿論、初めて付き合った人で、初めて体を許した人だった。

初めての恋人に、夢中だった結衣は、先輩の好みに合わせて、以前よりも、大人っぽいレースの下着や、色も黒など少しセクシーな物を、身につけるようにしていた。

「結衣の下着、すっごいセクシー」

同じクラスの夏美(なつみ)が、体のラインを、下着の上からなぞるような視線で、結衣を見た。

その日、身につけていたのは、フロントホックのレースと小さな薔薇の花がついた、お気に入りのブランドの新作だった。

「おまけに、右胸のキスマーク、見てて照れちゃうじゃん」

夏美が、結衣の胸のキスマークを指した。

「ほんとだ。先輩もさぞかし興奮しちゃうんじゃない?」

玲子が、楽しげに唇を持ち上げた。

「そういえば、玲子も彼氏できたんだよね?」

「あ、そうなの。5歳年上でね、とにかく大人なんだ」

「5歳上とか社会人?さすが、玲子」

夏美の言葉に、玲子が照れた様子で笑った。