1人になった途端に、涙は溢れて止まらなくなる。どうしようもなく、花灯に会いたくて、寂しくて、息苦しくなる。

「……どうして、私も連れて、逝ってくれなかったの……」

来未は、震える指先で便箋に触れた。

これを読めば、全部が終わりを告げる気がした。

それでも、花火からの最初で最後の手紙を読まなければならない。この手紙に、どうして自分を殺さなかったのか、花灯の返事が書いてある、そんな気がしたから。

来未は、几帳面に二つ折りにされた便箋をゆっくりと開いた。


『来未へ 
    泣くな。幸せに。』


初めて花灯の直筆の文字を見た。整った、少し大きめの文字で、そう一言だけ書いてあった。

(花灯らしい……余計な事は喋らない人だった……)

来未は、とめどなく溢れる涙で濡れた線香花火を両手にそっと包み込んだ。


ーーーー『幸せの記憶だけを見せてくれる花火だよ』

いつかの花灯の言葉が、かすみ草の香りと共に窓辺から、風に乗って聞こえてくる。


「花灯……ありがとう……」


これから、僅かに手元に遺された幸せの記憶だけを抱いて、前だけを見つめて、ただ歩いていく。

辛い過去を振り返る日もあるだろう。孤独に押し潰される夜も過ごすだろう。


それでも、生きることを諦めない。

いつか、心から笑える日を信じているから。

そして、夏が来るたびに思い出す。
夏空を見上げる度に、祈り、願い続ける。


ーーーーまた貴方と会える日を、花火の(あかり)を見つめながら……。