来未は、今度こそ、重たい両手を持ち上げて、封筒を受け取ると、ベッドに向けて逆さまにした。

中から、カチャリという金属音と共に、一枚の便箋と線香花灯が封筒から出てきた。

「鍵?」

「それ、花灯の家の鍵だね……多分、何処にも行くとこのないアンタに、あの家、好きに使えってことだと思うよ」

目の前が、涙で滲みそうになる。

この鍵を自分に渡すということは、花灯は、もうあの家に帰るつもりがないという事だ。

堪えきれず、ポタンと落ちた雫は、線香花火に落ちて、じんわり滲んでいく。

「それじゃあ、アンタへの預かり物もちゃんと渡したし、僕は行くね……もう会うこともないだろうから……」

千夏は、立ち上がると、扉に向かって歩いていく。

「……あの……」

来未の声に、千夏は振り返らずに、足だけ止めた。

「……かすみ草、有難う、御座います」

数ヶ月一緒に暮らしただけだったが、花灯は、花を飾る習慣はない。真新しい、かすみ草は、おそらく千夏が、持ってきてくれたのだろう。

「僕じゃないよ」

それだけ答えると、千夏は、静かに扉を閉めて部屋から出て行った。