瞳を開ければ、真っ白な天井に、左腕からチューブが見えた。

全身が重たくて、瞼を開けるのもやっとだ。視線だけ、右に向ければ、少しだけ開かれた窓の側には、かすみ草が、花瓶に入れて飾られている。

(病院……?)

コンコンと扉がノックされて、長身の男が入ってくる。

その姿に、来未は、身体を震わせた。


「……あ…な、た」


ーーーーどのくらい眠らせていたのだろうか?

長く使っていなかった声帯は、思う通りに言葉を紡げない。

「久しぶり。猫だけあって、よく寝るのな。もう起きないかと思ったよ」

男は、あの夜と違って、黒マスクもせず、紺色のスーツを見に纏っている。綺麗な二重瞼を細めると、ベッド前の丸椅子にぎこちなく腰掛け、左脚だけ投げ出した。 

自分を殺しにきたのでは、なさそうだ。

「ここ、どこ……?」

「あぁ、花灯の知り合いの研究所だよ。表向きは、ただの火薬を扱う商社だけどな……」

男は、下唇を湿らせたまま、来未をじっと眺めている。