「……嘘よ……こんなの、嘘っ!」

ビジョンが消えてから、雨音だけが、千夏と相川を包み込む。

空から降り注ぐのは、正義の雨か、それとも罪を犯した者への、懺悔を促す涙か。

「ははははっ」

千夏は、曇天の空を見上げながら、笑い声を上げた。

「何、笑ってるの?」

放心状態の相川が、千夏を、ぼんやりと見下ろしている。

「……だって、可笑しいだろ?お互い愛する兄妹の為に罪を犯した訳だ。それに、志田大樹は、見ての通り、とっくに死んでた……って僕が殺して、《《ある家のクスノキ》》の下に埋めたんだけどね」
 

ーーーーパンッ


長い髪の毛がスローモーションのように揺れ、相川が、両膝をついた。

千夏の拳銃から、白い煙が上がるが、激しい雨ですぐにかき消されていく。

「……はぁっ……はっ……」

「痛い?腹から血が出てるけど?」

両手で腹部を押さえながら、相川が、苦しげな声を上げた。

「油断、しました……さ、すが……射撃……お上手です、ね」

「お前に射撃の仕方、教えておかなくて正解だったな……」 

千夏は、ススキ花火を、利き手の左ではなく、右手で持つとマッチ箱を手繰り寄せた。

時間がない。相川に打たれた脚の出血量から考えると、もう1時間も、もたないだろう。


花灯が、来る前に全て終わらせたい。


ーーーー蛍が、愛した男に、もう二度と罪を背負わせたくないから。