「なぁ、何で蛍殺した?相川は、蛍のお腹の子供が大樹の子だと勘違いした。でもそれなら、階段から突き落とすなり、腹殴るなり、お腹の子供がいなくなれば、それで良かったんじゃねぇの?」

相川は、鼻を鳴らすとクスクス笑った。

「確かに、波多野文香から、大樹の子だって聞いた時は、虫唾が走ったわ。どうせ、大樹に無理やり犯されて出来た子だと思ってたから、堕ろすと思ってた。それなのに……あの女、此処に呼び出したら、お腹の子は堕ろさないなんて、ふざけた事いいだしたの」

相川は、込み上げた笑いを隠しもせずに、甲高い笑い声を上げた。

「ふふっ……クズ親に虐待されて育った、アタシには、大樹だけだった。大樹がいて、大樹がアタシだけ見てくれればそれで良かったの。それなのに……大樹は、蛍とかいう女に親からの虐待の傷の手当てを、偶然一度だけ、してもらっただけで、好きになるなんて、あり得ないっ!」

「蛍を……僕の妹を殺した理由って、それだけ?」

奥歯が、ギシリと音を立てて、脳みそが沸騰していくのが分かる。

「そうよ。アタシの愛する大樹の心を盗んだ上に、大樹に抱いてもらって、子供まで出来たのかと思ったら、殺したくなるのは当然じゃない?ま、結局お腹の子は大樹の子じゃなかったからいいんだけど」  

「……何がいいんだ?」

自分の声とは思えないほどに掠れていた。

怒りと憎しみだけが、毒のように全身を駆け巡っていく。